朝、インターホンが鳴る。寝ぼけている私を起こしたのは、配達員さんだった。彼が持っていた箱にはGOOPASS の文字。

「私はこの子と1か月間を共にすることになるのか…」
新しいものに飛びつきがちな私は、届いた箱をすぐに開け、カメラの電源を入れた。

それから30日間、このカメラを通じ、「手」をめぐる様々な出会いと発見があることを、私はまだ知らない…。

はじめに

GOOPASSとのコラボがあるという話を聞いた時から、わくわくが止まらなかった。

大学生でしかもカメラ初心者で私が購入するには、カメラは高額すぎる。しかしGOOPASSを利用すれば、「サブスクリプション」という形で安価にカメラを手に取ることができる。

一介の学生ではまず手にすることが出来ないような機材と共に過ごす機会を手に入れたのだ。私はここぞとばかりに最新機種をレンタルした。

今回私に付き合ってくれたのは、「Nikon Z 7Ⅱ」と「Nikon NIKKOR Z 28-75 F2.8」である。ポートレートもスナップも撮れて、見た目のわりに軽量。かわいい見た目とは裏腹に、このカメラセットで50万円を優に超えるというのだから恐ろしい。

カメラを手にして気づいたのだが、私は人を撮ることが好きだ。人の温もりを感じられる写真が好きなのだ。ポートレートを撮ろうかな、ふとそう思った。

しかし私は人見知りだ。普段から人の目を気にして生きているせいか、顔の写真は感情が分かりすぎて少し怖さを覚えてしまう。人の顔にはあまりにも多くの情報が詰まっているのだ。

では、手ならどうだろう。手であれば、できるだけ情報量を少なく、かつ人の温もりや表情を撮ることが出来るのではないか。そんな思いから、私は手に焦点を当てた「ポートレート」を撮影することにした。

この記事では、「手のポートレート」をキーワードに撮り溜めたスナップを、私の中に眠っていた感情や人との出会いと共に紹介したい。

「手」と雨

その日はあいにくの雨。水も滴るいい手。この言葉が浮かんできたのは、傘を持つ人たちの手を見たときであった。

▲焦点距離:44mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/60 ISO感度:800

濡れたガラス、濡れた地面、すべてがしっとりとしている世界で濡れることを嫌がる手。手には思った以上に感情が乗っていて、その感情は思った以上に読み取ることが出来る。

手は素直だ。手の「ポートレート」は顔の肖像よりずっと人間味が感じられるような気がした。

▲焦点距離:75mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/60 ISO感度:800

帰りの電車の空気感が好きだ。特に夜の電車は、一日の余韻に浸る時間を与えてくれる。せわしない日常の中で、この時間が尊いものになっていく。写真は時間を切り取るもの。自分の好きな時間を目に見える形に出来ることが、ただただ楽しい。

▲焦点距離:75mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/50 ISO感度:200

その場を離れる寂しさと、次にまたそんな時間と出会えることが楽しみな気持ちを胸に、私は電車を降りる。

「手」と花火

花火という言葉だけでテンションが上がるのはなぜなのだろう。やはり、人は普段しないことに興味をそそられるのだ。みんなが「人」と花火を撮っている中、私だけが「手」と花火を撮っている。そんな自分の尖りように酔いしれながらカメラを向けた。夏の始まりを彩る、色鮮やかな花火。

▲焦点距離:75mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/60 ISO感度:3200

私はこの写真から、夏と花火に心を躍らせる期待感と同時に、過ぎ去った季節への悲しみを読み取る。花火を持つことで人は笑顔になれる。炎の凶暴性と温かみ。

季節の移ろいを手から感じるのは初めてだ。手を写すことでしか見ることのできない特別な感覚。それはずっと大切にすべきものなのだろう。

▲焦点距離:28mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/200 ISO感度:6400

顔を撮るときの距離感とはまた違う、手を撮ることで保たれる、人との距離感が心地よい。

美しいものは一瞬で目の前から消えていく。その一瞬を映し出すことが出来たときの感動が今でも忘れられない。

「手」で出会う

人は年齢を重ねるごとに味が出てくる。それは手も同じだ。写し取った手を介して、そのことを実感する。手のシワのひとつひとつに、その人の人生が刻まれているのだ。

▲焦点距離:31.5mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/250 ISO感度:250

京都の小さな喫茶店で素敵なおじいちゃんに話しかけた。彼はここでコーヒーを入れる傍ら、店の片隅で版画をしている。

版画を始めてもう三十年近くになるそうだ。おじいちゃんは嬉しそうに版画の説明をしてくれた。自分の趣味を誇りにしているようだった。その生き生きとした力強い瞳が忘れられない。私がカメラを向けると「これも撮って!」と言われた。撮ったのは、おじいちゃんのお気に入りの版画。版画も写真と同じ、この世界に一枚も同じものはない。

▲焦点距離:28mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/250 ISO感度:250

年齢を重ねた手。初対面の私に撮影をさせてくれるおじいちゃんの優しさ。「手を撮る」というテーマがなかったら、起こり得なかった出会い。カメラがつないだ偶然に乗せられて、今がある。

手に宿るものを見つめて

一か月間、手の「ポートレート」を撮り続ける生活を続けた。そこで気づいたのは、顔に比べて、手のほうが自然に撮れるということだ。

そもそも自分の顔にカメラを向けられるという経験に慣れている人はあまりいない。しかも、この数年間で私たちはすっかりマスクで顔を覆って生活することに慣れてしまった。マスクという「仮面」を外して素顔を撮られることには抵抗がある。

しかし、手であれば、みんなノリノリで撮影に参加してくれる。だからこそ手に「表情」が宿る。手は意外と素直なのだ。

▲焦点距離:50mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/50 ISO感度:2500

手の「表情」を読む

私は人見知りだ。人を撮るときの距離感が怖い。しかし、人との間にカメラと手を置くことで、その恐怖が薄れる。近すぎず、遠すぎず。手を撮るときの独特の距離感は心地よく、ちょうどいい安心感があった。

カメラという一種のお守りを持つことで、人見知りの私が一歩踏み出すことができた。カメラは人見知りを克服する、とまでは言えないが、カメラが人との出会いのきっかけを作ってくれた。自分の殻を破るきっかけを与えてくれた。私を新たな世界へ連れ出してくれた。カメラを返却した今、私はまた人見知りに戻っている。それでも、カメラと過ごした1か月間で前に踏み出せた自分を、少しだけ好きになれた。

カメラと共に過ごすことは、人と出会い、そして私だけでは知りえない自分を探す冒険なのだ。次はどんなカメラと一緒に旅をしようか。

著者プロフィール:平木 彩結(ひらき・あゆ)

食べることと寝ることが大好きな大学二年生。大学進学と共に一人暮らしを始め、食事と睡眠がよりはかどるようになった。こんな私がおすすめしたい食べ物ナンバーワンは、宮島の『焼き牡蠣』。