スイート:甘い、甘美、可愛らしい
そんな世界からグッバイしたい私の挑戦。
ハロー・ポートレート
初めまして。大学四年生、ポートレーターです。
ポートレートとの出会いの記憶は、はっきりとは思い出せません。
でも、気がついたらポートレートの沼に片足を突っ込み、いつの間にか溺れていました。
そんな私が今回お借りしたのは FUJIFILM GFX 50s ⅡとGF 80mm F1.7 R WR の中判ミラーレスポートレート向けセット。
「かのんさんにはGFX使って欲しいな」
我らが別所隆弘先生のこの一言がきっかけで、 普段はSONY αシリーズを愛用する私がFUJIFILMの、しかも中判カメラを借りることになりました。

▲焦点距離:80mm、絞り:F/1.7、シャッタースピード:1/80、ISO感度:500
そもそも中判カメラとは何物なのか。
「フルサイズ機よりセンサーサイズがひと回り大きいカメラでしょ」
実機を手にするまではそんな印象でした。
インターネットの情報によると中判カメラのメリットは
「画質の良い写真が撮れる」
とのこと。
一ヶ月後、私にとって中判カメラはどんな存在になっているのか。
ほんの少しの期待と、「大した変化は感じられないでしょ」という期待とは裏腹の、少し冷めた感情で私の一ヶ月は幕を開けました。

▲焦点距離:80mm、絞り:F/2.8、シャッタースピード:1/160、ISO感度:200
フォー・フリーダム
ポートレート。人を撮るということ。
簡単なようで難しくて、難しいようで簡単なこと。
私にとってポートレートを撮ること、触れることは日常の一部で、
難しいことでも何でもなかった。
このコンセプトに至るまでは。
「グッバイ・スイート」

▲焦点距離:80mm、絞り:F/2.8、シャッタースピード:1/160、ISO感度:200
とは一体何なのか。
冒頭にも示したように、私はこの機材を通して”スイート”な世界から脱却したい。
”スイート”以外の世界を覗いてみたい。
あわよくばその世界を私の武器にしたい。
SNSでよく見かける写真は”スイート”なものが多いと感じていた。女の子が可愛く笑っている写真、綺麗な光が回る木洩れ陽と女の子の写真、大口径レンズで撮影した被写界深度の浅いバストアップの背景が溶けた写真。
写真が趣味でない人でも見たことがあるかもしれない。このような写真は見ていても気持ちよく、必然的に「いいね」が集まりやすかった。
ポートレートを始めたばかりの頃の私はこれらの風潮に乗っかり、SNSでウケることを狙って写真を撮っていた。
最初の頃はそれで満足だった。
しかし、ある程度の経験を得た時点で私の撮りたい写真とSNSの風潮は外れていることに気がついた。私の写したい世界はスイートなものではない。
では、ポートレートにおける”スイート”な世界とは何か。
私の定義するところでは、「映えや被写体の可愛さを全面に押し出した」ものである。
世に出ている数多の写真集を見れば一目瞭然。私の目には甘すぎる。グッバイ・スイートどころかトゥ・スイートな写真で世界は溢れている。
もちろんそういった写真がダメな訳ではない。私も過去に撮ったものの中には上記に当てはまるものも当然存在する。
意図的にそういった写真を撮ることもある。

▲焦点距離:80mm、絞り:F/2.8、シャッタースピード:1/160、ISO感度:100
一億総カメラマン時代と言われる今日、SNS上でそういった写真を目にしない日はない。
誰でも簡単にカメラマンになることができる。誰しもがSNSでバズることが可能な世界になった。
一枚の写真、一つの投稿だけでその世界のトップに躍り出ることすらできる。
その流れに乗ることも悪くはない。むしろ流れが味方してくれることさえあるだろう。
それでも私は新たな世界を見てみたい。
普段とは異なる機材を相棒に、まだ見ぬ世界を創り出したい。出会いたい。
このコンセプトは私の、私による、私のための挑戦である。

▲焦点距離:80mm、絞り:F/1.7、シャッタースピード:1/100、ISO感度:100
マイ・ユニバース
いざ実戦の時。
今回の撮影は協力してくれる被写体の方と事前にテーマを共有し、イメージを固めた上で臨んだ。
いつもは場所や何となくの服装しか伝えることがないので、そもそもこの体験自体が新鮮でかつ有意義な時間。
頭に描いている世界観を相手に伝わるように的確に言語化することの難しさを身をもって体験した。

▲焦点距離:80mm、絞り:F/2.8、シャッタースピード:1/1000、ISO感度:100
新たな相棒と撮影に出かけた感想はただひとつ。
「重い、ただ写りは抜群」
中判カメラということもあり、見た目から放たれるどっしりとした重厚感。
数時間の撮影ですら体が悲鳴をあげた。(筋肉痛になった)

▲焦点距離:80mm 絞り:F/2.5 シャッタースピード:1/100 ISO感度:400
しかし重みに耐えて撮影してきたデータは抜群に良い。
なめらかなボケ感や80mm(フルサイズ換算63mm)の絶妙な距離感。
全てが私には新鮮で新しいものへのときめきを感じた。
そして、今回の創作でひとつやめたことがある。
なんとなく枚数を稼ぐこと、だ。
私は「数打ちゃ当たる」と思って行動するよくない癖がある。
時にはこの行動が功を奏することもあるが、今回は最終的に一枚の写真やその時に考えたことを言語化する必要があったため、この癖を断ち切った。

▲焦点距離:80mm、絞り:F/2.8、シャッタースピード:1/100、ISO感度:400
実際今回の撮影枚数、は普段の私の撮影の仕方から考えるとかなり少ない。
しかしその中にも抜群にハマっている瞬間を多く収めることができた。
正直なところ、6月下旬とは到底思えない暑さとGFXの重さに耐えられず、撮影を早く切り上げてしまったこともなくはないが、それでも自分の写真への向き合い方に変化が起こった。
グッバイ・スイート

▲焦点距離:80mm、絞り:F/2.8、シャッタースピード:1/100、ISO感度:400
一ヶ月の挑戦を終えて、一番多く考えたことは私と被写体との関係について。
Instagramで写真を投稿しているとありがたいことに「かのんさんに撮影していただきたいです」と声をかけていただくことがある。私から「撮影させていただけませんか」とお願いすることもある。
これらの場合を端的に捉えると、どちらかは必ず受動的な姿勢を取ることになる。
しかし私にとってポートレートは、私と被写体の二人で一つの作品を創っていくものである。
私は撮らせてもらう、撮ってもらうの受動的関係ではなく能動的な関係でありたいという考えを内々に持っていたことに気がついた。
以前まで漠然と思っていたことを言語化する機会を中判カメラが与えてくれたのだろう。
ラージフォーマット、5140万画素の超高画質はもはや視覚への圧力だ。
これまでは無意識のうちに甘えていたことを中判カメラは許さなかった。機材が私の写真を”それなり”の出来にしてくれていた。被写体の表現力が私の写真の芯になっていた。
中判カメラの世界にこれらの「甘え」は一切ない。ラージフォーマットがもたらす異次元の高画質は、わずかなピントのズレさえも克明に写し出す。
この環境に踏み込んだことで大切なことに気づくことができた。
甘えることを許してくれない中判カメラは一人の人間の「写真を撮る」ということに対する意識すら変えた。
私は撮り手と被写体の間に受動的関係ではなく能動的な関係を求めていた、と。
甘えを許されない中判カメラの表現力。その扱い方は与えられた関係性に従っているだけでは見えてこない。自分から被写体に近づき、作品に寄り添う勇気が必要であることがわかった。それは今の私には、とてもビターで、少しも甘くない関係性。これこそが私が探していたものであり、期間限定の相棒が導いてくれた”答え”だ。
この気づきに至ったのは期間限定の相棒とお別れするほんの一週間前のことだった。
大切なことに気づくことができた。大きな収穫だ。
しかし私にはもう時間はない。この挑戦には一ヶ月という期間が設けられていた。

▲焦点距離:80mm、絞り:F/2.8、シャッタースピード:1/100、ISO感度:160
私が見ることのできた世界はグッバイ・スイートの片鱗だった。
このコンセプトは21歳の私には難しくて、でも私にとっていい挑戦であったことは確かだと言いたい。
カメラを手にして二年も経過するとある程度のポイントは押さえられる。
簡単にヒットくらいは打てるようになる。二塁打を打つ確率も上がってくる。
しかし今回は意図的にホームランを打たないといけないような挑戦だった。
今の私の実力では、狙った打球を確実にスタンドに運べるかはわからない。ホームランになるか三振に終わるかは、まだまだ運に頼っている部分が大きい。
改めて「自分の世界を創り上げること」の難しさを実感した一ヶ月になった。

▲焦点距離:80mm、絞り:F/2.8、シャッタースピード:1/100、ISO感度:160
普段使いのカメラよりももっと被写体に寄った世界を見せてくれた中判カメラは、まだ見たことのない世界がどこにあるかを私に教えてくれた。
まだその世界は完全には心を開いておらず、私は隙間から覗き見をしているに過ぎないが、いつか世界が満開になる時にもう一度、この相棒と創った世界を旅したいと思う。
GOOPASSを通して見えた世界は、甘くなかった。
ハロー・ビタースイート

▲焦点距離:80mm、絞り:F/1.7、シャッタースピード:1.0、ISO感度:100
FUJIFILM 本格中判ミラーレス & ポートレート向け単焦点セット GFX 50S II + GF80mmF1.7 R WRのスペックを見る
著者プロフィール:今田 圭音(いまだ・かのん)

写真以外の趣味は読書・音楽・野球観戦。
クールな見た目とは裏腹に可愛いぬいぐるみが好きというギャップあり。
野球は静かに観戦できないタイプ。
ただでさえ広くない自室が積読とぬいぐるみに占拠されている21歳。
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■被写体協力:
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