父が、私の名前を呼んだ。
はっきりと直視しなくても分かる。もう、体の半分以上が透けてしまっている。
父は悲しそうに、苦しそうに言葉を絞り出した。
「一人にしてしまって、ごめん。本当は、もっと一緒に生きていたかった。もっともっと、お前の成長を見たかった。でも、少し早くこうなってしまったのも、生きている間に十分すぎるくらいの幸せをもらったからかもしれないな。本当に、ありがとう」
そこまで聞いて、耐えられなくなった。私は膝から崩れ落ち、嗚咽した。
「大丈夫、またこうやって会えるかもしれないから。そんなに泣かないでよ」
体のほとんどが消えてしまった状態で、父はおろおろと私の肩に手を置いた。
透けているはずの手から、確かな温もりが肩に流れ込んでくる。
・・・泣いている場合じゃない。今言わないと、絶対に後悔する。
私は呼吸を整え、涙に濡れた顔を上げて、心配そうな表情の父に向かって叫んだ。
「ありがとう」
どうして、生きている間に言えなかったのだろう。このたった5文字の言葉を。何度言っても足りないくらいなのに。
私は涙を雪の上にこぼしながら、ありがとう、ありがとう、と叫び続けた。
涙でぼやける視界の中、穏やかな笑顔を浮かべた父が力強く頷いた。
そして、
「きっと、大丈夫だから」
私に向かってそう言うと踵を返し、湖の方に向かって歩き出した。
遠ざかる父の後ろ姿が光に縁取られ、白い朝靄に溶けていく。




