絵の具を何層にも塗り重ねたような空に、光の色が混じる割合が多くなってきた。
「もうじき、夜が明ける。・・・そしたら」
そこで父は言葉に詰まり、黙り込んだ。
私もそれ以上は聞かなかった。
「ほら、見て」
ふいに父が遠くを指差し、私は顔を上げた。
目の前には、夜が明けようとしている空と、静かに揺らめく湖畔が、混じり合うように、重なり合うように広がっている。
私は思わず、神様、と心の中で呟いた。
「どこからが空でどこからが湖か、分からないね」
そう言いながら、なおも指を差し続ける父を見て、私ははっとした。
父の指が透け始めている。
「こんなに空と湖が近いなんて、思わなかったなあ」
噛み締めるように呟く父の言葉に、私は、うん、と返事をするのが精一杯だった。
父の帰る場所はここではなく、父が指差す場所なのだと、心のどこかでは分かっていた。




