ひんやりと湿った空気を頬に受けながら、明け方には確かなものは何もない、と思う。
夜とも朝とも言えないこの時間は、闇も光も、与えられた役をどう演じて良いのか分からず、所在なさげに息を潜めている気がする。
どこからか立ち込める霧と薄闇のせいで、遠くの景色だけでなく、一番近くにあるはずの自分の手さえも、輪郭が揺らいでいる。
全てが曖昧なこの時間に、私は感傷に耽るわけでもなく、悲しみに暮れるわけでもなく、自分が世界に溶けていく感覚に浸るのが好きだった。

父を亡くしてから、自然と、夜が明ける前に目が覚めるようになった。
無理に起きようと努めている訳ではない。朝が忍び寄る気配を夢うつつに感じ取ると、体温が一気に下がり、現実に引き戻される感覚に襲われるのだ。
それからは目が冴えて眠れないので、朝日が昇るまで、家の近くの湖畔をひたすらに歩くのが私の日課になっていた。





