写真家アラーキーとその奥様である荒木陽子さんの愛の軌跡を辿るため、陽子さんの著書「愛情生活」をもとに二人が訪れた場所へ赴き、写真コラムを綴るこの企画。
(この連載の細かな企画内容については#1をご覧になっていただけますと幸いです。)

突然ではありますが、今回の旅を以ってこの連載は終了となる。
というのも、つい先日パートナーと婚約をし、これからはセンチメンタルな“ひとり”旅ではなくなるからだ。
連載最後の旅先として選んだのは、荒木夫妻が新婚旅行の際に訪れた福岡県柳川市。
(正しくは東京から京都、京都から福岡へと移動した新婚旅行だけれど、京都へは以前訪れたので割愛する。)
この連載のタイトルの元となっている、言わずとも知れたアラーキーの写真集「センチメンタルな旅」の撮影地だ。
今回は婚約者であるパートナーと共に、福岡県柳川市へと足を運んだ。
その旅を前編・後編に渡って紹介し、この連載を終わろうと思う。


まず、羽田空港から飛行機へ乗り、福岡空港へと向かう。
にも関わらず、羽田空港へと向かう電車の中でカメラ用のSDカードを忘れたことに気が付き、搭乗時間までの間空港を走り回ることに。
先行きが不安な旅にも思えるが、手荷物検査を通る前に気が付いたこと、カメラのメディアが一般的なSDカードだったこと(きっとXQDやCFだったら諦めていた)を考えればかなりツイている。
旅前の自分はいつになくポジティブだ。
無事にSDカードを購入できたところで、博多行きの飛行機へと乗り込む。
国内便なので短時間だし、もちろん時差もなければ言語も変わらない。
なのに飛行機に乗るとなんだかワクワクするし、東京では見ない企業看板やポスターを見ると旅を実感する。
福岡はこれまで仕事でしか来たことがなかったので、プライベートな旅行で訪れるのは初めてだった。





バスと電車を乗り継いで、今夜泊まる宿へと向かう。
泊まるのはもちろん荒木夫妻が泊まっていた旅館、「御花」だ。
ここはもともと柳川藩の藩主であった立花家が明治時代に建てた別邸。
今では国の名勝として指定され、国内で泊まることのできる唯一の名勝となっている。
日本建築と日本庭園、そして西洋建築が美しいバランスで融合されている。
「御花前」というバス停で下車すると、バス停のすぐ横を川が流れていた。
夕暮れの光が差す柳川は、水郷柳川と言われるだけあってとても美しかった。
川沿いを歩いて、御花へと向かう。


早速入り口から見える西洋館に圧倒される。
写真集の中でソテツの前に陽子さんが立っていた場所だ、とすぐにわかった。
御花は現在外壁工事中で、2024年7月からの半年間はホテル棟改装工事のため休業する。
その前に訪れることができて本当によかった。
内装の煌びやかさに圧倒されながらも、チェックインを済ませる。
あと何回この名字を書くのだろう、と思う。




スタッフの方とお話ししている中で、荒木夫妻が新婚旅行の際 御花に泊まっていたのを知り訪れたという旨を伝えると、なんと実際に荒木夫妻が宿泊した部屋と、荒木夫妻を題材にした竹中直人主演・監督の映画『東京日和』で撮影した部屋を見せていただけることに。
現在それらの部屋は料亭として使われており宿泊することはできないし、そもそも御花の中でも安い部屋を予約していた私はその他の部屋を拝見できるとは思ってもおらず、そのような提案をしてくださったことがとても嬉しかった。
荷物を置いてから、早速案内していただいた。
欄間や置いてある古物の繊細さに背筋がピンと伸びる。
昔「ふと拾った小石を見ているとその宇宙的な偶然さに震えるほど感動する」と話す人の本を読んだことがある。
私の場合かつて先人たちが立っていた場所や触った物を思うと似たような感覚に陥る。
荒木夫妻が泊まった部屋、さらには立花家が暮らしていた場所に今自分がいるのだと思うと、理解が追いつく前に時空が歪むような不思議な感動がある。


そのまま大広間へと向かい、一息つく。
そこから見える名勝指定されている日本庭園も素晴らしく、辺り一体の空気がとても澄んでいた。
心地よい冷たさの空気と夕暮れの光、そして緑と水。
その一体感が見事で、そのような場面に遭遇すると写真の無力さを改めて実感する。
しばらくの間、縁側に座っていた。




陽が落ちきる少し前に、夕食を食べに行く。
柳川へ来たならうなぎを食べないと、と思い近くのお店を予約した。
名物であるうなぎのせいろ蒸しは、蒲焼のタレをまぶしたご飯に、うなぎの蒲焼と錦糸卵を乗せせいろで蒸した料理。
蒸されたうなぎはとても肉厚で、ほのかに甘辛いご飯との相性は抜群だ。
堪らずう巻きも注文し、大満足のまま宿へと戻る。




隣のホテルまで温泉に入りに行き(御花の方が送迎までしてくれて入浴料も無料)、
昼間のんびりした大広間でフリードリンクのお酒を嗜む。
何から何まで至れり尽くせりで、まるで私も大名にでもなったかのようだ。
大広間に置いてあった福笑いで遊び、なんてことのない時間を過ごす。
長時間移動による疲れと満腹感で眠くなってくる。
こんな風にこれからも穏やかな毎日が送れたら幸せだ。
明日の朝ごはんはどんなのだろう、と考えながら眠りにつく。



著者紹介

髙木美佑(たかきみゆ)
1991年生まれ、東京都在住。 日本大学芸術学部写真学科卒業。セルフポートレートや 自己の体験を中心に作品制作を行う。 2020年12月に初の作品集「きっと誰も好きじゃない。」を刊行。
■WEB:https://www.takakimiyu.com/
■Instagram:@miyu.takaki
■Twitter:@2h35m
髙木美佑さん連載コラム『センチメンタルなひとり旅』


















髙木美佑さんインタビュー



髙木美佑さんによる機材レビュー







