写真家アラーキーとその奥様である荒木陽子さんの愛の軌跡を辿るため、陽子さんの著書「愛情生活」をもとに二人が訪れた場所へ赴き、写真コラムを綴るこの企画。
(この連載の細かな企画内容については#1をご覧になっていただけますと幸いです)

今回は都内編。GOOPASSさんからカメラをお借りした。
アラーキーが愛用していたカメラといえばPENTAX 67に並んで代表的なものにライカが挙げられると思う。
ライカといえば老舗の高級カメラメーカーで、わたしは今まで1台も持っておらず、ショールームで試しに触ったことがある程度だった。
ライカを取り扱っているレンタル業者はなかなか無いのでこの機会に借りてみたいと思い、Leica M10-Rと、SUMMARON-M 28mmを選んだ。
このレンズも単焦点なのに開放がf/5.6ととても変わっているなと思い、気になって調べてみると、アナログオールドレンズの復刻版らしい。
コンパクトで軽くスナップに向いているし、すぐに気に入った。



いざ、旭屋書店へ向かう。
ここはアラーキーが陽子さんへの初めてのプレゼントを購入したという本屋さんだ。
その初めてのプレゼントというのが、モディリアーニの画集だったそうだ。
展覧会で見たときよりも画集での方が色が綺麗に見えたと綴られており、それはただ印刷の品質がよかったからというだけではなく、彼からのプレゼントだったからなのかもしれないな、と思う。
ふたりにとって、本というものは特別なものであっただろうと想像する。
もちろんアラーキーが写真家であることや、新婚旅行で撮った写真を写真集にしているということ(この連載タイトルの元ネタとなっている「センチメンタルな旅」)もあるけれど、私が特に好きなふたりのエピソードがある。
派手な喧嘩をした翌日、まだ仲直りをしていなかったためアラーキーが陽子さんへ連絡をし、夜に食事へ行くこととなった。
待ち合わせ場所は、今はもう閉店してしまった銀座のイエナ書店。
アラーキーは先に到着しており、一冊の画集を買っていた。
その後レストランで赤ワインを飲んでいると、彼は先ほど購入していた画集を陽子さんへプレゼントし、プロポーズをした。ハンス・ベルメールの画集だった。
ティファニーでもカルティエでもハリーウィンストンの指輪でもない、婚約画集とはなんて痺れるプロポーズなんだろう。
天邪鬼な私の心にドンピシャで、読んだ本のなかでも特に印象に残っているエピソードだった。
そしてそのプロポーズのあと、ふたりは赤ワインに指を浸してそのしずくを画集の白いページに飛ばし、その出来事を残したそうだ。どこまでもロマンチックだな。
もし旭屋書店にモディリアーニかハンス・ベルメールの画集が置いてあったら、それは買うべき物だから買おう、と思っていた。
けれどそこは雑誌やビジネス書など多くの本を扱う書店であったため作品集コーナーはそれほどまで多くなく、見つけることができなかった。





ただここまで来たら、そのどちらかの画集ではなくとも、なにか気に入った本を買って帰らないと気が済まなくなってくる。
近くの本屋さんをスマートフォンで調べて、1つ気になった古本屋さんを見つけ、そこへ行ってみることにした。
池袋をぶらぶら歩きながら、写真を撮る。
お店へ向かいながら、もしその古本屋さんに、モディリアーニかハンス・ベルメールの画集があったらすごいなーなどと考えていた。




そこは画集などの美術書の他にも、活字本や図鑑などいろいろな種類の本を取り扱っていた。
店先にも本棚がたくさんあり、端から順番に本を見ていく。
最後に店先の端にある本棚を見ていると、重ねられている分厚い作品集の下に、モディリアーニの画集があった。
表紙に描かれた女性と目があった瞬間、鳥肌が立った。
今日ここへ来るようにと導かれていたのかとさえ思った。
正確にいうならばそれは画集というよりは展覧会の図録だったのだけれど、本には展覧会のチケットまで挟まっていて、そこにまたロマンを感じた。
買うことを即決し、本を胸に抱きかかえながらレジへと向かった。
モディリアーニの他にも、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」と犬の図鑑を買った。


家に着くまで待ちきれず、帰りの電車の中で買ったモディリアーニの画集をみる。
埃とインクが混ざったような古本独特の香りが、ふたりのデートを想起させるようで心地いい。
その画集は20年ほど前のもので、既に色が少し褪せている。
きっとアラーキーが陽子さんにプレゼントした画集とは全く違う色合いになってしまっているけれど、私の大切な宝物の一冊になった。
著者紹介:髙木 美佑(たかき・みゆ)

1991年生まれ、東京都在住。 日本大学芸術学部写真学科卒業。セルフポートレートや 自己の体験を中心に作品制作を行う。
2020年12月に初の作品集『きっと誰も好きじゃない。』を刊行。
■WEB:https://www.takakimiyu.com/
■Instagram:@miyu.takaki
■Twitter:@2h35m
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