写真家アラーキーとその奥様である荒木陽子さんの愛の軌跡を辿るため、陽子さんの著書『愛情生活』をもとに二人が訪れた場所へ赴き、写真コラムを綴るこの企画。
(この連載の細かな企画内容については#1をご覧になっていただけますと幸いです。)

前回までの3話は番外編として、私が今年訪れたオーストラリアとシンガポールへの海外旅行での写真とコラムを紹介させていただきました。
今回からは元々の主題であった『愛情生活』へと戻ります。
今回使用したカメラはα7 IV ILCE-7M4 ボディにTAMRON(タムロン) 28-75mm F/2.8 という組み合わせ。
ミラーレスでとても軽く使いやすいカメラに万能ながらも絞り2.8という大口径ズームレンズ。
このセットと共に、秋らしくなってきた夜の街へと繰り出しました。




本編へと戻るにあたり、久しぶりに著書『愛情生活』を読み返した。
改めて読むと、荒木夫妻の仲睦まじい様子が読んでいてひしひしと伝わってくる。
結婚生活が20年近くなっても、朝はテラスで一緒にラジオ体操をし、朝食から食事を共にし、そして互いにドレスアップしてデートをする。
陽子さんが綴る和洋折衷に及ぶ食事の文章表現はとても豊かで、読んでいるこちらまでお腹が空いてくる。また、それらにペアリングされたお酒の香りまでもがページの隙間から漂ってくる気さえしてしまう。
本書の中で食事の表現と同じくして特に私が好きな箇所は、映画についての章だ。
ご夫妻はよく映画館デートへ行っており、そして陽子さん一人でも頻繁に映画鑑賞を楽しんでいる。
二人で映画館へ行くとアラーキーは陽子さんの肩へと手を伸ばし、一人のときは夜、街の映画館で観ることが好きだという。
観た映画と鑑賞後の街がシンクロしてしまう時があると綴られており、すごく共感してしまった。
デートの定番とも言える映画館デートは私も大好きだ。
まだお互いのことをよく知らない関係性であっても、映画を観にいけば無条件にしておよそ二時間という長時間を一緒に過ごし、共有することができる。
恋人関係や夫婦などの親密な関係になっても、「新作映画を観にいこう」だとか「見逃してたあの映画がまた再上映されるらしいよ」などと言ってデートの口実ができる。
上映前に予告編が流れている間のあのまだ真っ暗になりきらない僅かな時間に、本編への期待を膨らませながらスクリーンの光に照らされる相手の横顔を盗み見たり(大抵は相手にバレてしまう)、二人の間に置かれたドリンクに手を伸ばしたら手を繋ごうか、などと期待したりしてしまう。
そして映画館から街へと出るエスカレーターを降りながら映画の感想を延べあって、多くの場合はカフェでコーヒーを飲んだり食事へ行ったりする。
残念ながら著書に登場する多くの映画館は閉館してしまったり、映画館としての役割を終え劇場として運営されているところがほとんどだった。
その中でもまだ映画館として残っている、渋谷のユーロスペースへと行った。
ユーロスペースも前の建物があった桜ヶ丘から現在の円山町へと移転しているが、現在もミニシアターをはじめとした多くの映画を上映しており、私も大好きな映画館だ。
この日は相米慎二監督の『台風クラブ』がレストア版として再上映されていることを知り、観に行った。
映画館は新しくなっていても、上映作品だけは当時のものを観たいと思ったからだ。




道玄坂をのぼり久しぶりに訪れた円山町は、ハロウィン前ではしゃぐ多くの若者で溢れていた。
人混みとネオンをかき分けつつ、時折道端に落ちているゴミをよけながらユーロスペースへと辿り着いた。
私が大学生だった頃にはもうこの場所へと移転していて、このコンクリート打ちっぱなしの外観は今も変わらずとてもスタイリッシュだ。
webで決済していたチケットを発行し、フロアで開場を待つ。
フロアの椅子の下にはたくさんのチラシと共に35mmフィルムのケースが置かれている。
この中にはどの映画のフィルムが入っていたんだろう、とぼんやり考えてる内に開場のアナウンスが流れた。
観客は私を入れて20人ほど。
ミニシアターなどそれほど人の多くない上映回に行くと、きっとこの人たちとは気が合うのだろうと思う。
実際は会話を交わすどころか目も合わせないことばかりだけれど、1つの作品の為に1つの場所に同じ時間に集まり、そして再び散り散りと去っていくのはとても刹那的だ。



映画はとても面白かった。面白かった、と一言で表すのは気が引けてしまうけれど、この映画を別の一言で表すことのできる言葉をまだ知らないような気がする。
爆発的、狂気、閉塞感、十代の危うさ、怖いもの知らず、どれもしっくりこない。
10年以上前に一度観たことがあったけれどあまり覚えておらず、台風によって帰れなくなり学校に閉じ込められてしまった生徒達の一晩の物語だ、という認識程度だった。
観た当時はまだ私自身が登場人物と近い年齢だったこともあり、共感していたのかもしれない。
改めて観るとここまで後味のどろっとした映画だったということにとても驚いた。





著書『愛情生活』での映画デートのあとは、イタリアンを食べながらワインを嗜んだり、いつもよりも少し特別な食事をしている様子が綴られている。
例に倣ったような食事で1日を終えようと思っていたけれど、あいにく上映後の渋谷は23時を回っており、ほとんどのお店がラストオーダーを終えていた。
仕方なく家の近所にある居酒屋でビールと軽い食事をとりながら、さっきまで観ていた映画のことを思い出す。
陽子さんが『台風クラブ』を観ていたらどんな感想を抱いただろう。
下着姿になって踊る女の子、東京の大学生男子と買い物をする少し大人びた女の子、同級生の男子から執着にも似た異常なまでの求愛を受ける女の子、そのどれらかに自分自身を投影するだろうか。
言葉でうまく言い表すことができないのは間違いではない。だからこそ言葉以外の芸術があるのだろう。
そして監督はそれを映画で表現した。
私もどの言語にも当てはまらないような物事を、私は写真で、これからも表現していけたらなと思う。






今回使用したカメラとレンズ
SONY α7 IV ILCE-7M4 ボディ

TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III VXD G2 (Model A063)

著者紹介

髙木美佑(たかきみゆ)
1991年生まれ、東京都在住。 日本大学芸術学部写真学科卒業。セルフポートレートや 自己の体験を中心に作品制作を行う。 2020年12月に初の作品集「きっと誰も好きじゃない。」を刊行。
■WEB: https://www.takakimiyu.com
■Instagram:@miyu.takaki
■Twitter:@2h35m
髙木美佑さん連載コラム『センチメンタルなひとり旅』


















髙木美佑さんインタビュー



髙木美佑さんによる機材レビュー







