世界がCOVID-19の渦中に巻き込まれた2020年2月、飛行機がキャンセルとなり香港に降り立つ事ができなかった私にとって今回は心から待ち望んだ旅だった。
そんな旅の準備はいつもカメラ選びから始まる。
コンパクトさと密度、雑踏と活気、インテリジェンスとカオス、モダンとクラシック、そんな言葉を添えたくなる場所、香港に合う機材とは何か。
色々考えたが幸運にもタイミングよくお借りできたNikon Z fが今回の相棒となった。
クラシックな見た目と最新の中身を持つこのレンズにライカレンズをTechartのアダプターをつけてAF化するというカオス運用。まさに香港旅にピッタリである。純正の40mmの評判も非常に良いのでその組み合わせでも利用しつつ、香港のスナップ旅を満喫しようという算段だ。

新機材を伴っての旅行、ワクワクと散財が止まらないのは写真好きの人だったら理解してくれるだろう。
5年ほどNikonを使っていた時期もあり、少し懐かしさすら感じる。旧友を伴って遊びに行くような感覚だ。カメラ上部に配置された真鍮製ローレットで一目であらゆる設定が確認できるところは普段のライカのインターフェースとも近く、使い勝手にも違和感はない。液晶と書いたがF値の表示だけに割り切っているところもグッと来る。
いつぞやも泊まった油麻地(ヤウマーテイ)のホテルにチェックインするなり、はやる気持ちを抑えきれず、早速外に出てシャッターを切るとこのエグい立体感の描写が飛び出した・・・。

液晶を二度見して拡大してから、その結果にニヤニヤしつつ敢えてバリアングルを液晶が見えないように裏返した。Nikonフルサイズ機初のバリアングル、これは一見するとNikon Z fには不釣り合いな感じはするが、液晶をパタっと閉じて撮影と操作にだけ集中でき、フィルムカメラのように撮影結果を楽しみに待つこともできる。

ガッチリ構えて気合いを入れて渾身の一枚を撮るよりも気軽に思い出を残していく、ということを重視するなら、AFによる撮影スタイルがちょうど良い。となりには妻もいるし、時には開放を使いたくなることもあるので、撮影のスピード感は大事だ。迷いは即夫婦関係へのダメージとなる。致命的だ。
何より2400万画素、という丁度良い画素サイズが旅スナップには最適だ。
旅中のスナップをトリミングをすることを考えると1800万画素だと少し物足りないし、4000万画素以上だと少しファイルが重すぎる。SDカードを沢山持っていけばよいけれど、荷物が多い旅行中では多すぎると紛失のリスクも上がるし、かといってシャッターを躊躇うのも勿体ない。その気軽さと丁度良いバランスがこのNikon Z fの2450万画素だと思う。
スナップを撮りながら悦に入っていると突然空腹感に気付く。香港への航空便は午後着だったので、昼飯を食べずにいたせいだ。中環(セントラル)駅から10分ほどの九記牛腩はミシュランビブグルマンを受賞した牛肉麺の店だが、昼間だと数十人が列を成す人気店。しかし、訪問したのは16時過ぎだったので5分も経たずに入店できた。

40mmは寄りのテーブルフォトにもちょうど良いけれど、空腹は抑えられない。ゴロゴロと入った牛バラ肉に思わずかぶりついた。
こういうローカルな店が香港の魅力の一つなのだけど、セントラル駅の周りを歩いていると日本食や韓国料理の店が増えている。この4年の間に閉じてしまったローカルな店が香港内では多数あり、そこに外資が参入しているらしい。風景の変化は香港にも常に起こっている。
空飛ぶガチョウで有名な鏞記酒家(ヨンキー)も倒産しかけたそうだ。少し様子が気になりつつ、お土産を買うために立ち寄ったが、土産コーナーのおばちゃんたちは元気いっぱいで少し嬉しくなった。
こっちが分からなくても広東語で喋り倒して指差し説明してくれる。このエネルギーを感じると「香港に来た!」という実感を得られるのだ。

ガラス越しに写真を撮っているとガチョウのローストの光沢感がなかなかえげつなく描写されている。
日本に持って帰ることは出来ないがこの美味しさは写真で伝わるだろうか?私は今見てもカブリ付きたくなる。半分はタレとご飯にかけて、半分は麺に載せたい気持ちだ。
少しホテルで休んでから友人との待ち合わせ前に夜のストリートを撮り歩く。裏路地や怪しい建物の中でなければ夜もあまり治安を心配せずに歩き回れるのが香港のよいところだ。
女人街沿いに進むと誰が買うのか分からないけどいつもやっているナイトマーケットや路上カラオケ(こっちは結構みんな歌っている)に遭遇できる。特に後者は多種多様な人が屋外で体をリズムに合わせて揺らしながら歌い踊る姿がなんだかいつも新鮮だ。
コロナ禍の間はこういった日常の中の祝祭性は失われていたのだろうか?日本の歓楽街とも違う光景にシャッター回数も増える。「よくわからなさ」というのは写真でも観光でも強いフックになる。海外の写真が特に目を惹くのはこれを内包しているからかもしれない。

11月ということもあり、あっという間に日が落ちるのでISO3200で撮影したが、ノイズも少なく、あっても目立ちづらい印象だ。凄く素性の良いRawを吐き出す。
香港の目抜通りには小型のクラシックなカメラ店がいくつかある。Nikonのロゴが目立つ店舗にNikon Z fをぶら下げて入ってみると店員が私のカメラを指差して、すぐ親指を立てながら「Nice Camera!!」と話しかけてきた。そうだろうそうだろう!借り物だけどな!
30分ほど撮ったら休むつもりがどんどん楽しくなってしまい、待ち合わせギリギリまで撮り続けてしまった。撮りたくなる機材は最高の相棒だ。



妻と友人とどローカルな店の前で合流する。
油麻地と言えば独特の土鍋で炊かれる煲仔飯(ボウジャイファン)が有名だ。周りのテーブルにも会社帰りや家族と晩御飯を食べに来ている人たちが多数。広東語しか聞こえないのはローカル度のバロメーター。みなワイワイと盛り上がっている。多分この熱量を浴びに来たのだ。
友人が「これは好き嫌い分かれるんだけど食べてみる?」と鹹魚(ハムユイ)入りの煲仔飯を分けてくれた。少し塩気の強い干物のような味だが、なかなかに旨い。お腹いっぱいで青菜を少し残してしまったが、ここでもおばちゃんが登場し「もう食べないの?美味しかった?」とグイグイくる。おばちゃんが元気な店は大抵美味い店だ。お腹が満たされると明後日の予定を確認して解散した。

撮影にも食事にも満足して、幸せな夜だった。
真夜中に、ホテルの火災報知器の誤作動で叩き起こされるまでは・・・。
(二日目へ続く)
今回使用したカメラとレンズ
Nikon Z f

Nikon NIKKOR Z 40mm f/2

COSINA Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Aspherical III ライカMマウント

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