午後2時10分

“古きドイツの騎士城の真の姿”
このお城の建城を命じた時のバイエルン王ルートヴィヒ2世は、そんなコンセプトを持っていたそう。
「確かに、この勇ましくも上品な佇まいには圧倒されるなあ」
『この城の建設のせいで、国は多額の負債を抱えることになった』と城内見学ツアーでガイドさんは言っていましたが、そのお城がいまや観光資源となって世界中から観光客を集めてバイエルン州の財政を潤しているのですから、歴史とは、どうも皮肉なものです。

お城の見学を終えたあと、このお城をよく見渡せるというマリエン橋へ向かいました。深い渓谷にかかるその橋には大勢の観光客がカメラを構えて思い思いに写真を撮っていましたが、わたしはまず、自身の目できちんとこの景色を脳に焼き付けることに専念します。この地の空気や匂い、風になびく木々の音や、空をゆく鳥たち。そしてわたしはなぜこの地を訪れ、この景色を見たかったのか。
ひとり旅とは、その名前にも増してとても孤独なものであると、常々感じます。たかだか1,2日間訪れる街にどんな感想を抱いたとしても、旅人である以上、感想を持つこと以外にできることはないですし、その街や人々・文化に干渉することもできませんから。では、旅をすることによって何がどうなるのかというと、それはやはり旅人であるわたし自身の心の変化であって、その変化に気づくのは紛れもなくわたし自身だけなのですが、訪れた街や人々・文化は、その“変化の気づき”についてなにか助けてはくれないのです。

いまこの雄大な景色を見て、そして今日一日この南ドイツの小さな街を巡って、わたし自身は一体どう変化したでしょうか。その答えを、やはりこの景色も空気も、吹く風も飛ぶ鳥たちも教えてはくれませんし、わたし自身分かっていません。いつか分かるかもしれないし、分からないかもしれないし。とにかく、わたしはこの景色が好きです。とても大好きです。
午後3時58分
お城の観光をひと通り終えて、さすがに疲れていたわたしは、馬車を使って山をくだり宿へ向かいました。何枚か写真を撮ってからあとのことは、やはりよく覚えていません。覚えているのは、10月にしては蒸し暑くて、お馬さんが地を蹴る音が、わたしを夢の世界へ連れて行ってくれたことくらい。

午後8時41分
今日の旅日記はここで締めくくろうと、わたしはまもなく筆を置きます。宿に着いてからは、夕食レストランで食べたお肉料理にルンルンになったり、シャワーの温冷の調節に苦節したりといくつかの出来事がありましたが、先ほどから何度も首をコクリと上下に動かしていますので、そろそろ寝ます。

おやすみなさい。



