
「まもなく、○○に着きます。お出口は左側です。」
目的の駅に着くアナウンスがされたところで、列車の前から2両目に乗っていたわたしは、降りる準備をします。なにせこの列車は、ドアはたくさんあるのに、1番前の車両の一番前のドアしか開きません。ワンマン運転というやつです。
列車を降りたところで、友だちと会う約束をしている時刻にはまだ少し余裕があることを確認したわたしは、駅のベンチに座りました。あの日あの時の続きを、振り返るために。

「写真家なんてたいそうなものじゃない」
わたしがそう言ったとき、高橋さんが鼻で笑ったのを覚えています。それに対して、わたしは特段ムッとすることはありません。彼女のクセみたいなものです。町内会の会合でも、よく聞きます。
「写真撮って楽しく生ぎでんだがら、それだげで立派な写真家だべや。それともおめえさん、写真撮んの嫌いなんだがした?」
「いや、写真撮るのは好きですけれど、だってわたし、別にプロでもないし・・・」
歪んだガードレールに腰かけて、土の混じるアスファルトに靴底を擦り付けてもじもじするわたしに、高橋さんは呆れたのか、こう続けました。
「これだがら最近の若えもんは。んだらほれ、おらだ(わたし達)の写真撮ってけろ、代わりに野菜たんまり届でけっからの。おらだがおめえさんを写真家って言ってんだがら、そんでええの」
それからしばらく、高橋さん夫婦とはいくつか会話をし、彼らの写真も撮りましたが、その時のわたしは、高橋さん夫婦になにを言われても、それら言葉はわたしの心にはスッと入ってはきませんでした。しかし、わたしが自身を「写真家」と位置付けるようになるのは、実は、その日の夜から。つまり、高橋さん夫婦の写真を撮ってから、わずか数時間後のことです。



