「まもなくゴンドラ動きます!あっ、今日は頂上のリフトは開きませんが、ゲレンデパウダーが最高ですよ!」
係員が早朝から待ち並ぶスキーヤー・スノーボーダーに呼びかけるとどこからともなく「おおおお!」という地響きのような歓声が吹き荒ぶ風雪の中に轟いた。ここがダンスフロアなら間違いなく名DJだろう。マイナス8℃の寒さも忘れさせるスノーパリピたちのボルテージのブチ上がりを感じる。そして何より白い粉の気配を。
末端価格プライスレス。
数多の人間の人生を狂わせ、ぶち壊してきた合法なのに中毒性の異常に高い白い粉。
最近ではこれを求めて数万キロもの距離を越境するものたちも多数と聞く。
はるか東方への憧憬と出会えた歓喜をないまぜに彼らはこう呼ぶ
「JAPOW(ジャパウ)」と。
まずはそれがどんなものか、こちらの動画をご覧いただきたい。
さて、パウダースノーの天国ニセコに通い出して15年近くになる。
その間にアマンやリッツ・カールトンと言ったラグジュアリーホテルも進出し、気づけば異国情緒を感じるような風情。
ヒラフのメイン通りでは英語が飛び交い、店員も多くが外国人だ。
圧倒的な軽さという「質」と日々視界が遮られるほどにつもりゆく「量」という、
他の国のどこでも味わえない最高の雪を味わうためにみなやってくる。
もはや世界自然遺産レベルの集客力だ。

ウインタースポーツを体験したことのない方にパウダースノー最大の魅力を伝えるのであれば、自由落下と空気抵抗が拮抗したときの浮遊感、と言えばわかるだろうか?
斜度によるスキーの落下速度とパウダースノーの抵抗がせめぎ合い、ターンの度に得も言われぬ浮遊感を醸し出す。
「落ちているのに浮いている」
文字面ですら矛盾している、他の何でも味わえないこの感覚。これこそがパウダースノーでしか味わえない世界である。よくわからないかもしれないが、かつて体験してきたどの加速度運動とも異なるが故にこれ以外に例える術がないのだ。
「滑っているのにスベってない」
とも言えるかもしれない。いや、多分これはスベった。
深いパウダーになれば時に雪飛沫が顔を覆い窒息死しそうなほどにもなるが、それすら快楽の一端だ。今からでも遅くないのでこの最高に気持ちいい感覚を味わってみて欲しい。
一点注意しておきたいが、朝一番のベストな状態のパウダーをみな血眼で狙っている。
誰も滑った跡がないファーストトラック。この最高の獲物を追って、数多の猛者たちが
早朝からゴンドラ、リフト前に並ぶ。ちょっと隙を見せようものならゴンドラに乗るまでの廊下で追い越されてしまうという弱肉強食のラットレース。しかし、トップで到着してからもレースは終わらない、誰より早く板を履き、必死で漕がねばすぐ後ろから追い抜かれる。
名状し難いあの殺伐とした空気はもはや戦場そのものだ。
だが、それに勝利し、リフト上からの羨望の眼差しと「Wow!~!」「Yeahhhhh!!!!」などと嫉妬の叫びを浴びながら滑る瞬間は格別であることも書き残しておきたい。
ちなみにニセコのパウダー滑っている間は私も「Woo-hooooooo!!」などと半分発狂しながら外国人よろしく叫び倒していることがあるがこれはぜんぶ雪のせいである。
白い粉、ダメ、絶対。




