写真家アラーキーとその奥様である荒木陽子さんの愛の軌跡を辿るため、陽子さんの著書「愛情生活」をもとに二人が訪れた場所へ赴き、写真コラムを綴るこの企画。
(この連載の細かな企画内容については#1をご覧になっていただけますと幸いです)

突如思い立った京都旅行も、いよいよ終わりが近くなる。
金閣寺を後にし、日も暮れた。お腹が空いてきたので、夕飯をとることにした。
「愛情生活」を読んでからずっと行ってみたかった、京都市の丸太町十二段家というお店へと向かう。
向かうバスの座席には手袋が忘れられていた。


このお店は大正時代から続くしゃぶしゃぶとお茶漬けのお店で、荒木ご夫妻は京都旅行の際に夕飯をどうするか、京料理だとかすき焼きだとか散々迷った挙句、結局このお店でお茶漬けを食べていたらしい。
夕飯でお茶漬けをサラサラっと食べるなんて粋だな、かっこいい大人だな、と憧れていた。
歴史のあるお店だけれど、普段着でも大丈夫な京料理店と知り、京都へ行ったら夕飯は絶対ここでお茶漬けを食べると決めていた。
バスを降りて一本道を歩いていくと、オレンジ色の灯りが見える。
「一見さんはちょっと・・」なんて言われるのではないかとドキドキしながら、戸を開けた。
お店へ入り1名だと伝えると、店員さんが「寒いなかありがとう」と迎え入れてくれた。


私はこの日、30歳の誕生日を迎えた。
お茶漬けのメニューは3つあり、副菜の数によって値段が変わる。
自分への誕生日プレゼントとして、1番高いものを選んだ。お刺身と小鉢がついた定食だ。
そして瓶ビールも注文した。
店内には家族連れや若い人なども居たけれど、全く騒がしくもなくとても落ち着いていた居心地の良い雰囲気だった。
このお店の雰囲気がそうさせるのか、はたまたそういった人たちが集まるお店なのか。
私はよく、着ている服や聞いている音楽にすごく気持ちが左右される。そういう人は多いだろうと思う。
スカートを履けば女性らしくなるし、ダボっとしたカジュアルな服装のときは心なしかボーイッシュでヒップホップが聴きたくなったりする。レザーを着たらロックを聴く。
女性がヒールを履くと背筋がピッと伸びたり、男性がスーツを着てシュっとするのとよく似ていると思う。




お店の方から撮影許可をいただき、料理の写真を撮る。
お料理は一品一品がどれも美味しく、名物ともいえる卵焼きは本当にふわふわで驚いた。
京漬物もたくさんあり、ほうじ茶でいただくお茶漬けと、赤出汁と堪能する。
ついつい食レポのようなことを書いてしまうほど美味しかった。
満腹で大瓶の瓶ビールは飲み切れないまま、閉店時間になってしまった。
ただ、京都へ来てこんな歴史のあるお店でひとりで食事しながらビールを飲むなんて大人になったな、と考えていた。
荒木ご夫妻がこのお店によく来る理由がとてもよくわかる。
私もまた必ず訪れたいと、苦しいお腹をさすりながらしみじみと思った。
会計を済ませ、新幹線へ乗るために京都駅へと向かう。


誕生日にひとりでこの旅行に来てよかった、と本当に思った。
20代の内は誕生日当日に何をするかなど特に気にしていなかったけれど、30歳を迎える誕生日は私にとって大きな節目で、特別なものだった。
30代の幕開けである今日のことをきっとこの先の余生で思い出すことは1回や2回ではないと思う。
その時に、この1日の思い出を誰かとのものにしたくなかった。
例えば、誕生日に恋人と過ごしその後別れてしまったとして、それが当時の恋人と過ごしたものとして嫌な思い出のように自分の中で残ってしまうことが嫌だった。
別れることを想定していたのは今ではおかしいことのように思うけれど、その以前の恋人とひどい別れ方をしていた私には仕方がなかった。
かといって、友人にお祝いしてもらうのも申し訳ないという気持ちがあった。
格好つけて言うならば、全て自分の選択にして自分の思い出に責任を持ちたかった。
帰りの新幹線に乗りながら、この原稿の下書きを考える。
きっと荒木ご夫妻が当時京都旅行をしていたときよりもずっと早く、京都までの行き来ができるようになったのだろう。
二人は車内でどんなことを話し、過ごしていたのだろうか。
東京へ着くと街は相変わらずの師走ムードだ。
近所のスーパーでリビングに飾る鏡餅を買って帰った。
著者紹介:髙木 美佑(たかき・みゆ)

1991年生まれ、東京都在住。 日本大学芸術学部写真学科卒業。セルフポートレートや 自己の体験を中心に作品制作を行う。
2020年12月に初の作品集『きっと誰も好きじゃない。』を刊行。
■WEB:https://www.takakimiyu.com/
■Instagram:@miyu.takaki
■Twitter:@2h35m
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