写真家アラーキーとその奥様である荒木陽子さんの愛の軌跡を辿るため、陽子さんの著書「愛情生活」をもとに二人が訪れた場所へ赴き、写真コラムを綴るこの企画。
(この連載の細かな企画内容については#1をご覧になっていただけますと幸いです。)

この記事を以って、この連載は終了となる。
最後の旅先として選んだのは、荒木夫妻が新婚旅行の際に訪れた福岡県柳川市。
私にとっては婚前旅行となる今回の旅を、前編に続き、今回は旅の後編を紹介していく。
▼前編はこちら



柳川市の老舗旅館“御花(おはな)”に宿泊し、朝を迎えた。
その日は静かに雨が降っていた。
料亭の個室で朝ごはんをいただく。日本人で良かったと思えるようなメニューと一緒に、黒く光る有明海苔。
「ぜひ最初は醤油を付けずにそのまま食べてみてくださいね」と仰せのままに口へ運ぶと、海苔の良い香りと風味が広がる。
堪らずご飯をおかわりして、満腹のままチェックアウトの準備をする。
旅館を出る際、御花のスタッフの方がご婚約の記念に、柳川まりをプレゼントしてくださった。
柳川まりとは、柳川に古くから伝わる吊るし飾り「さげもん」に欠かせない工芸品である。
色とりどりの刺繍が華やかであるのに、ころんとしたフォルムで小動物のように可愛らしい。
スタッフの方の心遣いにとても感激し、なんともあたたかな気持ちになった。
御花の改装工事が終わったら、なにか特別なタイミングでまたいつか絶対に泊まりに来たい。
(御花は文化財の魅力を最大限に引き出すライトアップ為のクラウドファンディングを実施しております。)


その後、隣接する西洋館の見学へ。
明治時代に迎賓館として建てられたその建築は、一歩足を踏み入れるとまるでタイムマシーンに乗ってそのままタイムスリップしてしまったかのように別世界だ。
現在は結婚式場やパーティー会場として使用することができる。
部屋のところどころに飾られている立花家の方々のお写真がまた素晴らしい。
今まで結婚式を挙げたいと思ったことはなかったけれど、そんな私でさえ、こんなに素敵な場所でなら挙げてみたいと思える場所だった。





川下りの船乗り場へ向かおうと外へ出た頃には、雨はもうあがっていた。
道すがら、何隻かの船が川下りをしているのを見た。
その水景がまた美しく、こんな風景を目の当たりにしたらそりゃ水墨画で描いたり俳句を嗜んでみたりしたくなるよな、と思う。
船頭さんに案内され船に乗り込むと、乗客は私たち二人だけであった。
観光サイトや実際に見かけた船ではいつも5〜10人ほどが相乗りをしていたけれど、タイミング良くたまたま貸切になった。



船頭さんが歌ったり街案内をしながら棹(さお)を使い、曲がり角も器用に船を進ませていく。途中で橋の下をくぐる時は、皆で頭をさっと伏せる。
橋の下で歌うと、エコーがかかって歌が上手に聞こえるんです、と船頭さんが笑う。
さっきまで歩いていた道の横を通っても、オープンカーのように船上から眺める街並みは別の都市のようだ。
柳川は詩人・北原白秋が育った街であり、白秋の通学路であったという道沿いを下る。
御花に置いてあった書籍の中にとても洒落た装丁の本があり、ふと手に取ってみるとそれが白秋の「思ひ出」であった。陽子さんも売店で見つけ購入したと綴っていた本だ。
しかもそれは柳川市だけで売られている限定版。
どうしてもその本が欲しくなってしまった私は、すぐにインターネットで中古本を探し購入したのだった。





貸切という訳で、アラーキーの写真集「センチメンタルな旅」の中で陽子さんが船上で寝転がっている写真を見せながら、船頭さんに「この写真の再現をしてもいいですか?」と思い切ってお願いしてみた。
するとすぐに快諾してくれ、何度も撮り直しながら陽子さんと同じポーズで写真を撮った。
まさか貸切になって再現できると思っておらず、スカートを履いてこなかったことが唯一の心残りだ。

船上からの景色にビルが入り込み始め、そろそろ降り場へ着くことがわかる。
船を降りた後は、船頭さんが休憩中によく食べに行くという立花うどんで食事をした。
一時間ほど乗船し少し肌寒くなっていた身体を甘辛く煮詰められた肉ごぼ天うどんで温める。




柳川を名残惜しみながら、福岡空港へと向かう。
船に乗り電車に乗り飛行機へと乗り込む頃には、すっかり夜になっていた。



自宅へ帰り、荷解きをする。
届いていた白秋の思ひ出のページをめくる。
いただいた柳川まりを早速玄関へと飾る。引っ越してきたばかりのころ豪徳寺で買った招き猫と仲良くしてくれているようだ。
婚前旅行から帰ってきても、まだ結婚するという実感は湧いていない。
幼い頃から素敵な人がいたら結婚したいという憧れはずっとあり、人生を心電図のようなもので表すと結婚は大きなR波のように起伏のあるものだと思っていた。
けれど私の心電図はあまりにも穏やかで、その線描はふかふかのお布団のようだった。
これからは“ひとり”旅ではなくなる。
“ふたり”で歩んでいく長い長い旅は一体どんな旅になるのだろうか。
荒木夫妻のように、いつまでも仲良く愛情に溢れた生活を送っていきたい。
どんな旅でも、私たちならきっとうまくやっていけるはず。
最後に、この連載を読んでくださった方々、そしてMARSH編集部の方々に改めて御礼を申し上げます。
およそ二年半という長い間、本当にありがとうございました。
またどこかでご一緒できますことを心よりお祈りしております。


著者紹介

髙木美佑(たかきみゆ)
1991年生まれ、東京都在住。 日本大学芸術学部写真学科卒業。セルフポートレートや 自己の体験を中心に作品制作を行う。 2020年12月に初の作品集「きっと誰も好きじゃない。」を刊行。
■WEB:https://www.takakimiyu.com/
■Instagram:@miyu.takaki
■Twitter:@2h35m
髙木美佑さん連載コラム『センチメンタルなひとり旅』


















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