MARSH読者のみなさんこんにちは。4月に始まったCreator’s Styleも今回で5回目。
今回は本格的に始まる花火シーズンに向けた、「花火写真」の撮影方法を、Nikon Z 8 の公式作例を担当されていることでも話題となった写真家・別所隆弘さんに教えていただきました!
コロナ禍で数年間開催されなかった花火大会も、今年から解禁されるものが多いそう。花火大会を思い切り楽しむために、花火の撮影に挑戦してみてはいかがでしょうか?ぜひ最後までご覧ください。
Creator’s Styleとは…
「だいぶ写真撮影に慣れてきたけど、自分の作風がなかなか出せない」「自分が撮りたいイメージになかなか近づけられない」という悩みを持つ方は、きっと少なくないはず。
そんな読者の悩みを解決するべくスタートしたMARSHの新企画が、Creator’s Style(クリエイターズ・スタイル)。
撮影テクニックや作品表現に関するノウハウを、独自のスタイルを持つクリエイターにレクチャーしていただく、1ランク上のお勉強コンテンツです!
自分の色を出すための、自分の思い描く理想の作品表現に近づくための、とっておきのヒントがたくさん詰まっているので、ぜひ最後までご覧ください。
フォトグラファー・別所隆弘さんについて
まずは今回「花火の写真」について教えてくださる別所隆弘さんについて紹介します。

別所隆弘
写真家、文学研究者、ライター。関西大学社会学部メディア専攻講師。毎日広告デザイン賞最高賞や、National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストであるNature Photographer of the Year “Aerials” 2位など、国内外での表彰多数。写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。滋賀、京都を中心とした“Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。日経COMEMOで記事執筆中。フォトグラファーとしての知見を活かして、インバウンドや地方創生事業、SNS運用のコンサルタントなどにも関わる。
別所隆弘さんの作品





別所さんが海や山で写真を撮る理由
ー本日はよろしくお願いします。今回は「海や湖のリフレクション」「山から撮る方法」「煙と一緒に撮る方法」の全3編に分けて撮影方法やレタッチを教えていただきたいのですが、上記のようなシーンで撮影されている理由などはありますか?
別所さん僕が海や山で撮影しているのは、普通に撮っても個性が出にくいというのが大きな理由です。
もちろん花火だけを撮っても十分きれいなんですけど、僕じゃなくてもとても上手に撮られる名人の方がいるので、個性を出すために、水辺と山のどちらかで撮るようにしています。
ーたしかに、別所さんの写真は、普段よく目にする写真とはまた別の臨場感が伝わってくる気がします!
今回のお手本写真
今回は下記の2枚の写真を例に、撮影方法やレタッチについてうかがっていきます。
写真①:きほく燈籠祭


写真②:きほく燈籠祭


撮影場所


ーまず海や湖の水辺のリフレクションと一緒に撮る場合についておうかがいしていきます。
具体的には「お手本写真」を例に撮影場所や機材などを教えていただきたいのですが、写真①と写真②はどこの花火大会なのでしょうか?



これは三重県の「きほく燈籠祭」という花火大会で撮影したものです。今は花火の聖地になった場所ですけど、この写真を多くの人に見てもらったおかげで、飛行機だけでなく花火写真の方でも名前を知っていただけるようになりました。思い出深い写真の一つです。
ー本当に素敵な写真なので反響が大きかったんですね。花火のリフレクション写真を撮る際には、どういった場所で撮影されるのでしょうか?そもそも有名な場所かとは思うのですが、場所取りなども含めて教えていただきたいです。



まず、僕が撮る花火大会は、結果としてその後に名所になるような場合もいくつかあるのですが、本来は有名な場所には行きたくないんですよね。有名スポットだと既に写真もたくさん撮られている場合が多いので、どれだけ頑張ってもなかなか「自分の写真」にしづらい場合も多いです。この「きほく燈籠祭」に関しては、地元の皆さんがひっそりと何年もかけて愛されていた場所に、僕が入れさせて もらって撮影したんです。当時は全国的にまだ知られていないような場所だったからこそ、「自分の写真が撮れた」と思えたのかもしれません。
常に発想は「逆張り」の思考になります。できるだけ誰も行っていないとこ ろが望ましいと思うんです。
一番良いのは誰一人三脚を立てていないところに行きたいです。
だけど、そんな場所はなかなか無いので、結果として名所に行ってしまうことはあるんですけどね。それでも、まずは誰もいないところを探します。
ー各地から人が訪れる花火大会ではなくて、地元の方々が毎年見に行くような花火大会を探すんですね。花火大会を決めた後の撮影場所はどのようにして探すのでしょうか?



まず考えるのは、風の影響を受けないことです。海の場合、とくに太平洋に面したところで撮ると波で水面が揺らいでしまいますよね。そうすると絶対リフレクションしないんです。
となると、花火のリフレクション撮影で一番有用な場所は、内海になっている……、簡単に言うと海が凹んでいる場所です。
この紀北の海は内側に凹んでいる堤防が、さらに内側に引っ込んでいるような場所なんですけど、こういう湾と言われるようなところは風の影響を受けづらいから、波が平たくなるんですよね。
大きく波立たないので、花火がきれいに反射する可能性が高いというわけなんですよ。
なので、撮影場所に関しては、その自然状況に対して、自分がどこで撮影すれば良いか?を探すことからスタートします。
ー花火の撮影が初心者の人には、その撮影場所の見極めがなかなか難しいように感じてしまいます……。



花火って全部海や湖、川などの水のある場所でやることが多いじゃないですか。関西は海や湖の近辺でやることが多いんですよね。そうすると凹んでいる場所を探せば良いだけなので、意外と探せるんですよ。
ーではおすすめの撮影場所を誰かから聞くというわけではなく、撮影に行かれる前に地図で地形を確認して、アタリをつけられるのでしょうか?



はい。「きほく燈籠祭」の場合はアタリを4〜5ヶ所程度つけておいて、まず1ヶ所目は人が多すぎてダメで、2ヶ所目が上の写真のポイントだったんですけど、射出点から少し離れた湾の外側の辺りで、地元の方が立てているらしき三脚が4〜5本見えたんですよね。それで「隠れた名所に違いない」と思って、そこにいた人たちに「僕も三脚を立てさせてもらってもいいですか?」って聞いたら、快諾してくれて。それで撮ったのがこの写真です。
ーアタリを何ヶ所かつけておくと言っても、花火大会は時間に限りがあるのでハラハラですね。
1ヶ所ポイントを見つけたらずっとその場所で撮影されるのでしょうか?



はい、時間がなかったので(笑)。花火は始まると1時間で終わるうえに、普通の花火大会でワンプログラムの間に撮れるのは大体2〜3発なんですよ。「長岡花火」のように2時間ひたすらクライマックスみたいな別格の花火大会はありますけど。
だから一度三脚を立てたら動けなくなってしまうんですよね。あと移動したとしても、良い場所ってそんなに見つからないですし……。
なので三脚を立てたら基本的には動かない場合が多いです。
ー地形などはアプリを使って確認するのでしょうか?



僕の場合はGoogle MapとGoogle Earthを使って確認しています。
ーロケハンなどはされないのでしょうか?



ロケハンはほとんどしないです。僕があまりロケハンを好きじゃなくて……。Google MapとGoogle Earthを使って「こんな風に(花火が)上がるだろうな」とか「こんな風に上がったらいいな」とか頭の中で想像して「脳内ロケハン」はしますけど、当日ワクワクしたいという気持ちもあってしていないですね。もちろん仕事ではちゃんとやります(笑)。
やっぱり一番うれしいのは、ノリで見つけた場所で、頭の中でイメージした通り、もしくはそれ以上にすごい花火が上がったときなので、プライベートではあまり現地ロケハンはしない場合が多いです。
あとは前提としてプライベートでは「撮れなくてもいい」って思っているんですよね。
ー「撮れなくてもいい」とはどういうことでしょうか?



花火の撮影に限らないのですが、撮影もそうだし、移動もそうだし、その日の食事もそうだし、出会う人もそうだし、その現地の風景もそうなんですけど、全部をその日1回限りのものにしたいんです。RPGで言うと、やるべきクエストをただ消化するよりも、寄り道してすごい武器をたまたま発見してっていう進め方が好きで……。
ーただ花火を撮るという目的を淡々とこなすというわけではなく、撮影自体を楽しむにはそれくらいの心持ちでいた方が良い思い出になりそうです。
毎年行かれる花火大会などもあると思うのですが、その場合は別のポイントを探されるのでしょうか?



それはコスパとの兼ね合いで変わります。
例えばこの「きほく燈籠祭」も、僕一度山登りしたことがあるんですよね。でも地形を見るとどうしても視界が制限される花火大会なんです。
この花火が四方八方から見えるかっていうと、山に囲まれている町なので、遠くになればなるほど見えなくなってしまうんですよ。
なので必然的にこの湾の周りに集まってしまうっていう、コスパ的にはそうなってしまうんです。
一方で、「びわ湖大花火大会」に関しては琵琶湖岸の平地な場所の中心に上がります。そうすると、その周りの山ならどこからでも見ることができるんですよ。なので、コロナ禍の3年間を除いて、7〜8年ぐらいは全て違う場所で撮っています。
ー地形的に撮る場所が限られてしまう場所はどうしても出てくるけれど、撮影地のバリエーションが多い場所ではポイントを変えて撮られているんですね。
海や湖のリフレクションの撮影場所
・湾のような風が無い場所の風上か風横で撮影
・場所はGoogle MapやGoogle Earthで4ヶ所程度候補を出して、その日の風向きで行く場所を絞る
機材


ー花火撮影に持っていかれる機材はどんなものになるんでしょうか?
ボディはNikonのZ 8をお使いだと思うのですが、レンズもNikonのZマウントのレンズを使用されていますか?



はい。今はZ 8オンリーです。レンズもZマウントのものを使用しています。
海や湖などの水辺で撮ると決めているときは、基本的に14mm、20mm、35mmなどの広角レンズを2本持って行きます。
これにプラスして、「便利ズーム」とか「高倍率ズーム」と呼ばれる、24mmスタート200mmまで伸びるレンズ(NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR)を必ずセットしておきます。
ー使用するアクセサリーなどはありますか?フィルターなどは使われないのでしょうか?



ハーフNDフィルターを使用すると、下側の露出とピッタリ合うから、きれいに撮れる可能性が上がるんですけど、僕はフィルターは使わないので、持って行かないです。
なので機材はものすごいシンプルに、三脚2本と、ボディ2台(場合によっては3台)、広角レンズを2本、便利ズーム1本という感じです。
ー便利ズームは何故必要なのでしょうか?



僕が全然ロケハンしないタイプだし、失敗してもいいって思いながらやっているから、行ったらマジでダメっていうパターンが多くて……。そうすると場所を変えなければいけないじゃないですか。
しかも花火大会が始まるギリギリの時間に行きがちな人間で、時間もほとんど無いので、射出点の場所から、人がいない方向へどんどん離れて行くんですよね。
その場合、広角で撮っているとあまりにも遠くて、花火が本当に小さくなってしまうので、寄ることができる便利ズームも用意しておきます。保険ですよね。
ーなるほど。「撮れなくてもいい」と思いつつも保険を用意されているのは流石ですね!
三脚はどちらのメーカーのものを使用されているのでしょうか?
ー撮影時に三脚はどれくらい持って行かれるのでしょうか?



何があってもいいように車の中に5本くらい積んでいます。カメラ3台で撮るときもあるので、そういうときはさらに小さい三脚があって、それも使っています。例えばスマホの案件があるときは小さいスマホ用の三脚にブラケットをつけて、三脚を4本立てるときもあります。
5本積んでいるのは、三脚が壊れたとき用に予備で多めに積んでいるからです。
ー撮影ポイントの近くに車を停めて、そこからは歩かれるんですよね?
近くに駐車したとしても、カメラを2〜3台と三脚を持って行くのはすごく大変そうな印象です。



そうです(笑)。
海辺に行くときはレンズが軽めなのでまだいいんですけど、山の上で撮るときはもっと大変です。リフレクション撮影よりも機材が多いときもあって、登山を始めて15分くらいで崖から荷物を全部捨てようかと思うくらい疲れます(笑)。
ー想像するだけでも疲れてしまいそうです(笑)。
花火の撮影では三脚選びがかなり重要になってきそうですね。



昔は無茶することもあったんですけど、最近は体優先です。軽くて扱いやすいトラベラー三脚(GITZOやLeofoto、ARTCISE)を使用しています。
ARTCISEの三脚は2021年ごろから使うようになりました。
ーそのほかに水辺でのリフレクション撮影で持って行かれるものはありますか?



海に限った話ではないのですが、夏場は虫よけとか痒み止めと、日焼け止めと水分は必須です!
ーたしかに大事ですね。初めて花火撮影する方には意外と盲点なんじゃないでしょうか。
設定


ー次にカメラの設定についてうかがっていきます。水辺のリフレクション写真はどのような設定で撮影されていますか?



基本的に、カメラが花火に近ければ近いほど「逆二乗の法則」で、光量は強くなっていきます。つまり距離に対して二乗分ずつ強くなっていくんですよね。
超広角で撮るときって花火に比較的近く、光量が多いので、絞りがちにスタートします。
ただ、「きほく燈籠祭」の写真①に関してはF8なんですよね。花火撮影としては明るく撮っているんです。
あの花火は小さい花火が1,000発くらい一気に花開くもので、光量自体はそんなに強くないんですよ。暗く撮ってしまうと後でリフレクション部分の光を起こせなくなるので、白飛びはしないけれど比較的明るく撮るためにF8で撮っています。できるだけハイライトは抑えなければならないので、ISOはD800で撮っているので64です。あとはバルブ撮影ですね。
ーバルブ撮影では秒数を固定されているのでしょうか?



秒数を固定してしまうと花火が混濁してしまう可能性があるので、花火がきれいに花開いたところを見届けた後でシャッターを外すようにしています。
ーF値はその時々によって設定を変えられるのでしょうか?



F8で撮るのは例外で、大体F14程度です。スターマインのような花火の場合は白飛びしてしまう可能性もあるのでF22まで絞ることもあります。明るい花火を撮る場合だけ全体の光量を落とさなければならないので、白飛びさせたくない方はNDフィルターを使用されるといいと思います。
ーホワイトバランスはどのようにされていますか?



花火の場合は周囲がよく見えないので、自分のテンションが高まるように設定しています。さめざめとした青い空間に花火が上がるという気分だったら白色灯や蛍光灯、暖かい町の上に花火が上がるという気分だったら太陽光など……。ただ、後で設定することもできるので、オートにしていることが多いです。
ー設定に関してそのほかに何かこだわっている点などありますか?



今年から考えていることが1つあって…。
Nikon Z 8から搭載された新しい「HEIF」という画像形式があるんですね。簡単に説明すると今までより、かなり高輝度に撮れるんです。ISOを400以上で設定して、ダイナミックレンジを拡張してくれるので、明るく撮れるようになるんですけど、そのHEIFに対応したディスプレイで見ると圧倒的な輝度表現になるんです。
なので今年はHIEF形式での撮影を本格的にやるつもりです。多分2〜3年後あたりに「撮っておいてよかったな」ってなると思うんですよね。
ーカメラで写真を撮るときに、HIEF形式で撮影することは現時点ではあまり一般的ではないですが、それでもHEIF形式での撮影に挑まれる理由はなぜでしょうか?



HIEFって対応しているディスプレイが動画用とかゲーム用が多くて、今の段階で使えなさそうに見える形式なんですけど、おそらくJPEGでやれるのも2023年が限界ギリギリになってきているんですよね。
スマートフォンはもうHDRにも対応しているので、そのスマートフォンに引っ張られるような形で映像表現全体の輝度が上がっていくと思います。そうすると写真側も対応しなければならない未来が必ず来るんですよ。
花火は輝度が高いものを表現するにはすごくいいから、僕は今年の花火は全部HEIFで撮ると思います。
ただ、この記事を読んでくれる方がチャレンジして、失敗するリスクはだいぶ高いと思いますけど、それでも1年後ぐらいに「撮っておいてよかったな」となる可能性はあるかもしれないです。
ー花火撮影の初心者がやるにはハードルが高い撮影なのでしょうか…?



HIEFに設定すると白飛びがしづらくなるメリットがあるので、逆に花火撮影に慣れている人の方が頭がこんがらがる可能性があると思います。
プロの方って「頭の中の光量マップ」のようなものがあって、「F14でこのくらい」「F8で今の花火白飛びするよな」とか言いながら現地で設定を変えるんです。HIEF形式の撮影はそれとは全く異なる基準になってしまうから、「頭の中の光量マップ」がある人が挑戦すると苦労してしまうかもしれません。
むしろ花火撮影初心者で、まっさらな状態から始める方はそういった苦労が無い分挑戦しやすいのではないでしょうか。
ーたしかに、全く花火を撮影したことがなければ、そういった感覚が無いので、やりやすいかもしれませんね。
▼別所さんが解説するHIEF形式の撮影に関しては下記の記事をチェック!


海や湖のリフレクションのカメラ設定
・レリーズを使用したバルブ撮影
・F値の基本は14程度で、光量が少なく明るく撮る場合はF8、光量が多い場合はF22まで絞る
・ISOは64〜100。HIEF撮影のときは400
・白飛びさせたくない場合はNDフィルターを使用しても◎
撮影方法(画角)


ー撮影方法で注意したい点などはありますか?



リフレクションで撮る場合は、上に花火が上がるのと合わせて、水面に映る部分も計算に入れなければならないんですよね。
加えて、想像以上にすごく広がる場合が多いから、必ず画角を広くとるようにしています。
具体的には横構図かつ、左右と上が空いてもいいぐらいのイメージで構図をセットする場合が多いです。
ーたしかに、いつどんな時にどんな花火が上がるのかは把握できないので、構図は広めにとったほうが安心ですね。



知ってる花火でさえ、真っ直ぐ縦に上がって開くのか、斜めに上がって斜めに開くのか、予想ができないんですよ。その年の花火師さんにしか分からないことですし、花火師さんでも予想以上に開いたり、高く上がったりする時があるので、絶対予想通りにはいかないんですね。なので必ず広く撮って、その広く撮ったものを自分の出力意図に合わせてトリミングしながら撮影しています。
ーそのために広角レンズが必要ということなんですね。
海や湖のリフレクションの撮影の方法
・構図では画角を広めにとって、後でトリミングをする
レタッチ


ー最後に海や湖のリフレクションのレタッチについて教えていただけますか?



花火のレタッチって現実通りにすると火線がかなり白いんですよ。あれは花火が花開いて、最も高輝度な状態からだんだん光がなくなっていく中で、見えている光を人間の記憶から頭の中で再構成しているんです。だから、おそらく時間で言うと2〜3秒くらいの間に見えている色が、全体の色であったという風に記憶を改ざんしているんですね。おそらくそれが「花火を見る」という体験なんですよ。花火を見るという体験は「幻想を見ている」ということになって、誰ひとりとして現実を見ていないんです。
ただ、「花火を撮る」ということは、花火の「現実を撮る」んですよね。つまり高輝度を撮るんですね。
輝度のかなり高いところを撮っているから、基本的に白いんです。
だけど、印象として、僕らの幻想が作り出している頭の中の空間は色づいているはずなんですよ。その誤差を埋めるのが花火のレタッチです。だからハイライトの部分を抑えていくんですね。
最近のセンサーだと、ハイライトを抑えれば抑えるほど本来の火線が持つ色合いは出てきます。
一方で、ハイライトを抑えれば抑えるほど、現実で見たときの輝かしい光の記憶とはかい離していくんですよ。これが難しくて……。
なので、基本的には現実よりも火線の色を出しつつ、輝度を下げすぎもせず、その間を狙っています。
ーハイライト部分の処理にこだわっているんですね。具体的にハイライトはどれくらい下げていますか?



マイナス30〜40くらいにしている場合が多いです。
それと、リフレクションを撮る場合はリフレクション側の処理をどうするかもすごくこだわります。リフレクション側のほうが暗い場合が多いんですよ。物理的に空の空間のほうが明るくなっていて、反射している下側のリフレクション部分が暗くなるので、上の輝度よりも下の輝度のほうが若干低くなっています。
だから、段階フィルターを使って下側に光を少し足しています。
ー上下の輝度をそろえるというイメージでしょうか?



上下の輝度が同じになってしまうと、これまた違和感が出てしまうんですよね。ただ、僕は違和感は出てもいいかなと思っています。
写真は現実通りというのも面白くなくて、さっき話したように、僕らは幻想に生きているんですよ。おそらく100人いたら100人が違う空間を見ているんです。その向こうで物理が弾けている。物理が弾けているその空間を僕らは幻想で受け取っていて、上と下が同じように輝いているように見えるんですよね。
最近は上げ過ぎたらロマンが無いかなと思って、若干下側を暗くするような現象にしている場合が多いんですけど、昔は割と上の輝度に近づけていました。段階フィルターで下だけ輝度を上げるみたいな感じで。
ーちなみに、輝度を上げる場合はどの項目で調整されることが多いのでしょうか?



露光量をプラスにする場合が多いです。
あとは最後にトーンカーブでコントラストを調整しています。昔はシャドーや黒レベルをマイナスにしていたんですけど、全体が引っ張られすぎるので、トーンカーブでその該当する部分のところをちょっとだけ落として、そこからほかの部分をなだらかに元に戻します。
トーンカーブは極端にすると画像が破綻するじゃないですが、これがむしろ良くて、その画像が破綻するほどの現像をしてしまうと、トーンカーブ的にはおかしいということになるんですよ。
だからトーンカーブで処理をして、おかしくなるような現像にならないようにしています。
ーでは、ハイライトで基本のレタッチをしたあとに、トーンカーブで最終的にコントラストを調整されているんですね。とても色鮮やかに見えますが、彩度などを調整されることはないのでしょうか?



花火は彩度をいじらなくても既に色がてんこ盛りなので、調整することはないです。個別に色をいじるときはありますけど、花火はハイライトを下げてコントラスト足すだけで絵になります。
ーなるほど。先ほど設定の部分でお話ししたホワイトバランスはどうでしょうか?



ホワイトバランスは黒が黒に見えるようにはしています。
ーレタッチをする際にほかに何かいつもされている作業はありますか?



めっっっちゃトリミングします(笑)。
見本の「きほく燈籠祭」の写真①は左右と上をあえて切っています。
ートリミングをする理由などはありますか?



さっきの幻想の話と同じで、僕らが現地で見ている時って、花火が空と空間を埋め尽くしたような印象なんです。ただ実際はそんなことはなくて、当たり前ですが真上は黒いんですよね。真っ暗なんですよ。実際に見た印象を裏切りたくないので、黒を出したくなかったんですよね。それが理由の1つです。
トリミングをすると、この写真を見た人は、この上にも同じように花火がいっぱい上がっている風景を想像します。これが写真の面白いところで、写真を見た人って切り取られた空間の外も勝手に想像するんですよね。この切り方にしておいたら上と左右にもっと花火が散っているように見えるんですけど、上と左右に黒があったら、そこまでしか花火はなかったとなって、人間の想像の力が発揮されません。
なので僕は花火の時は大体がっつりトリミングします。
ーなるほど。花火が上がった瞬間の臨場感などをより多く伝えるには、思い切ってトリミングするというやり方もあるんですね。花火以外の撮影でもこの考え方は応用できそうです。
レタッチのポイント
・火線の色を出しつつ、輝度を下げすぎもせず、ハイライトを30〜40程度下げる
・リフレクション側の輝度(露光量)を花火より少し暗い程度に上げる
・トーンカーブでコントラストを調整
・トリミングをして、より臨場感のある写真に
撮影時の注意点


ー水辺でのリフレクション撮影で注意したいマナーなどはありますか?



敷地に侵入しないようにするという点は、気をつけたいところですね。入ったらいけないような場所に入って、三脚を立てて、地元の人とトラブルが起きるっていうのは避けたいので、水辺で撮るときは敷地の所有者に事前に電話をしています。
「きほく燈籠祭」の写真(写真①・写真②)も、じつはカフェのマスターの敷地なんですよね。だから撮りに行く2ヶ月前くらいに、「今年も行っていいですか」って電話しています。そしたら「どうも別所さん。また今年もいらしてください!」みたいな感じで、場所を準備しておいてくれるんですよ。
そしたら場所が確保されているわけですから、当日がまずもう安心じゃないですか。
それで、行って、三脚を立てて、花火が始まるまで、そのお店のコーヒーとかスパゲティとかカレーとか食べるって、こんな最高な撮影ないですよね。
僕、基本コミュニケーションが苦手なタイプなんですけど、そういうときはもう「それがやるべきことだ」と思って、ちゃんと電話するし、ちゃんと許可を取らせてもらっています。
次回「山編」に続きます!




別所隆弘さんの使用機材一覧
※GOOPASSで在庫があるもののみ掲載しています
レンズ
NIKKOR Z 20mm f/1.8 S


NIKKOR Z 35mm f/1.8 S


NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR


NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR


別所隆弘さんによるコラム・レビュー記事




▲別所隆弘さんによるMARSH連載コラム『シャッターを切る前の話』


▲別所隆弘さんによる打ち上げ花火の撮影テクニック解説記事


▲別所隆弘さんによるNikon Z 8レビュー記事



















