MARSH読者のみなさんこんにちは。
今回は「花火写真」の撮影方法第2弾! Nikon Z 8 の公式作例担当の写真家・別所隆弘さんに山から花火を撮影する方法を教えていただきました。
山からの撮影は「登山+撮影」という、なかなか過酷なもの。やってみたいけど一歩踏み出せていない方は、ぜひこの記事を参考に撮影に挑戦してみてくださいね。


Creator’s Styleとは…
「だいぶ写真撮影に慣れてきたけど、自分の作風がなかなか出せない」「自分が撮りたいイメージになかなか近づけられない」という悩みを持つ方は、きっと少なくないはず。
そんな読者の悩みを解決するべくスタートしたMARSHの新企画が、Creator’s Style(クリエイターズ・スタイル)。
撮影テクニックや作品表現に関するノウハウを、独自のスタイルを持つクリエイターにレクチャーしていただく、1ランク上のお勉強コンテンツです!
自分の色を出すための、自分の思い描く理想の作品表現に近づくための、とっておきのヒントがたくさん詰まっているので、ぜひ最後までご覧ください。
フォトグラファー・別所隆弘さんについて
まずは今回「花火の写真」について教えてくださる別所隆弘さんについて紹介します。

別所隆弘
写真家、文学研究者、ライター。関西大学社会学部メディア専攻講師。毎日広告デザイン賞最高賞や、National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストであるNature Photographer of the Year “Aerials” 2位など、国内外での表彰多数。写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。滋賀、京都を中心とした“Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。日経COMEMOで記事執筆中。フォトグラファーとしての知見を活かして、インバウンドや地方創生事業、SNS運用のコンサルタントなどにも関わる。
別所隆弘さんの作品





今回のお手本写真
写真①:びわ湖大花火大会

写真②:長岡花火

山から花火を撮影する際の場所

ーそもそも、別所さんはなぜ山から花火を撮影をされているんですか?
別所さん山から花火を撮影した写真って、ほとんど前例が無いんですよ。
元々発想の原点には、「花火を地元の人に返したい」という意識がすごくあって……。返したいって偉そうな言い方になってしまうんですけど。
ー「花火を地元の人に返す」とはどういうことなのでしょうか?



花火って地元のものだと思うんですよ。で、子どもたちに見てほしいものなんですよね。
僕が「びわ湖大花火大会」に感動して、そのあと写真家になったときに花火の写真を残したいなと思ったのは、子どもの時に感動したからなんです。
子どもの頃は、地元ってどうでもいいじゃないですか。ただ、花火がきれいだったという記憶は残りますよね。例えば、桜とか紅葉とか色々ありますけど、花火ってその最たるものなんです。皆んなで見るから記憶に残ると思うんですよ。だからやっぱり地元 の人にできるだけ見てもらいたい。
それなのに、有名な花火大会に撮りに行くと、最も美しく花火が見えるポイントに、前日から三脚がずらりと並んでいる。子どもたちや地元の人ではなく、写真を撮る人たちがいい場所を独占してしまう。徐々に、名所を奪ってしまっているという罪悪感みたなものが出てきました。その気持ちが最も強くなったある時、「遠くから撮ろう」って思ったんですよ。3km、4km、10km、20kmと離れていったら誰もいないだろうと…。そしたら本当に誰もいなくて(笑)。
本当に誰1人としていないから、僕だけの写真が撮れるんですよね。
それが山から花火撮影を始めたキッカケです。
ーなるほど。地元の人に花火を楽しんでもらうために撮影場所を考慮した結果、山に行き着いたのですね。
山からの撮影ポイントはどのように探されているんですか?



もうGoogle Earthを穴が空くほど見るぐらいしかないですね。最初は、Google Mapで花火の射出点から5km以内の範囲で、「山」や「展望台」を検索して探す場合が多いです。花火が一番きれいに見える範囲内に展望台があるだろうか、あるいは山の休憩所みたいな場所があるだろうか、アクセスできる場所があるだろうかという風に探します。5kmの範囲で無ければ、10kmの範囲で探すのですが、そうすると大体いくつかポイントが出てきます。
それで、今度はその出てきた場所の詳細に飛ぶと、写真が投稿されている場合があるんですよ。そうすると射出点の方向がひらけているかどうかという情報がいくつか手に入ります。
そのうえでさらに、Google Earthでもその場所を確認して、大体4〜5つくらい場所を選定しておいて、当日の風向きに合わせて行く場所を決めます。
風下になると煙が全部こっちに来るので、僕は風下は選ばず、横側を選ぶ場合が多いです。
ー横側を選ぶ理由はありますか?
ーそれでもそのポイントまで自分で実際行かなければならないんですよね。ということは山登りもするわけで……。



はい。もちろん登ります(笑)。成功率は大体5回に1回ですね。
失敗するパターンがいくつかあって、まずは行ったら花火が見えないパターン、次は天気によって見えないパターン、距離感によって見えないパターンや風向きが急に変わって見えないパターンもあります。
「赤川花火大会」で最高にきれいに見えるポイントがあって、1時間半かけて山を登って到着したんですけど、着いたときは完全に晴れていて、目の前にはきれいな赤川の町があって、ど真ん中に花火が上がる予定だったんですよ。ところが1発目が終わった瞬間から急にゴーって雨が降り始めたんです。山の天気だからすぐ変わるだろうと思ってじっと待っていたんですけど、2時間降りっぱなし。下山するときもずっと雨が降っていて、怪我をしながら山を降りました。
ーそれは相当過酷ですね。ただでさえ雨の中の登山って危険で大変なのに、機材を持ちながらってすごいですね。



なので5回のうち悪く言って4回くらい失敗します。でも成功するときは連発で成功もするので。
ーではどちらかというと水辺のリフレクション撮影のほうが易しいのでしょうか…?



圧倒的に楽です(笑)。
ー写真が素敵なので撮りたいと思う方も多いと思いますが、結構過酷なんですね。
山ならではの危険も多いですよね。



一度行ったら二度と行きたくないと思います(笑)。
危険度も高いので、山で撮るときは大体iPhoneで音楽ずっと鳴らしながら、熊などの動物が近寄ってこないようにしています。
ーちなみに、初心者におすすめな撮影スポットなどはありますか?



「びわ湖大花火大会」超定番ポジションである「夢見が丘展望台」という場所がおすすめです。
射出点から4kmほど離れているんですけど、めちゃくちゃきれいに見えるので、誰でも撮ることができます。
駐車場もすぐ横に管理されていて、車で行くことができるので、毎年大人気のポイントですね。
普段は誰もいないんですけど、花火大会になると日本全国から人が集まるので、花火大会当日は入場制限かかります。
ー人気すぎるという欠点はありますが、車で行けるのはありがたいですね!
山から花火を撮影する場所
・Google Mapで花火の射出点から、5〜10km以内の範囲で山や展望台を探した後、Google Earthで花火が見えそうなポイントを5ヶ所程探す
・風向きは当日にWindy.comやYahoo!天気で確認し、風上〜風横のポイントで撮影する
機材


ーそれでは次に、機材や持ち物について教えていただけますか?
水辺の撮影時と変える機材などを教えてください。



昔は無茶して大きい機材を持って行っていたんですけど、最近は超望遠レンズも重さで選ぶようにしていて、できるだけ軽い超望遠を持って行くようにしています。
あとはフルサイズ2台と、三脚もできるだけ軽いものを持って行きます。
あとは、水、虫よけ、虫さされの痒み止めを詰め込んで、服装は保冷剤を仕込めるジャケットや首に巻くクールタオルを身に付けて、着替えのTシャツも1枚持って行くようにしています。
ーなるほど。登山の基本装備+機材ってことですよね。



そうですね。夏山登山のセッティングに、カメラと軽めの機材を詰め込んで登るって感じです。
ーレンズは具体的に何を使われるんですか?



NikonのNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sです。今年はこれを2本背負って行くと思います。
これが1,355gで2本で約2.7kg、フルサイズ910gを2台で約1.8kg、1kgちょっとぐらいの三脚が2本で、MacBookも持って行くので、大体カメラ機材だけで10kgくらいあるんですよね。
ーPCまで持って行かれるんですね!



花火はやっぱりその日のうちに見てほしいんですよ。煙がまだ空に残っている時点で。
花火が終わって帰るとき、みんなスマホでTwitterやInstagramを見ながら帰るじゃないですか。そのタイミングで、「これクライマックスに見たよね」って言って、盛り上がるのが好きなんですよ、僕。次の日も改めてSNSに投稿するんですけど、その日のうちに出したいのでMacBookを持って行きます。
今年はもうしんどいので軽いやつにする可能性もあるんですけど、なんにせよレタッチできるものを持って行くと思います。
ーカメラを2台持って行かれる理由はなんでしょうか?



動画を撮るからです。花火はもう動画を撮らなきゃいけないような被写体になってきているので、動画を必ず撮るんですね。
だから人によっては機材を半分にしてもいいと思います。
動画ないし写真だけでいい人は、フルサイズ1台と、超望遠レンズ1本、三脚1本だけでいいと思います。
僕もあまりにしんどそうな山だと三脚は1本にします。2台カメラを載せられるブラケットを持って行く場合が多いんですけど、どうしてもそのシャッターの振動を拾ってしまいますね。
カメラの設定


ーカメラの設定に関してですが、水辺での撮影と山からの撮影では設定は大きく変更されるんでしょうか?



まずF値を開きます。大体11とか14まで絞らなくても対応できる場合がほとんどです。
それは逆二乗の法則で光が減っていくからです。山からの撮影は射出点からの距離が5kmスタート、遠くて10kmくらいの場所で撮るので、基本的にはF8かF9、遠い場合はF5.6くらい、あまり遠くない2、3kmの場合はF11で撮るときもあります。
ーISOはなるべく低い値でバルブ撮影に関しては同じでしょうか?



はい。そうですね。
花火を山から撮る場合のカメラ設定
・基本的にはF8かF9、遠い場合はF5.6くらいで、距離が2、3kmの場合はF11
・そのほかは水辺のリフレクションと同じ
撮影方法(構図)


ー撮影方法と構図について教えてください。



撮影方法で注意したいのは、光の速さと音の速さの違いです。
音速は光速よりも遅いので、音を聞いてシャッターを切ると遅い場合が多いです。
なので、バルブ撮影のときには、目で見えている火線を頼りにしてシャッターを切って、「自分の頭の中で思い浮かべているきれいだなっていうタイミング」で離すようにしています。
ー射出点から5〜10kmの地点にいるので、音が届くのが遅いんですね。これは初めて遠方から撮る人は注意したいですね。
構図はいかがでしょうか?



超望遠花火の構図づくりで一番気をつけなければならないことは、平たくなりがちだという点です。
見本に挙げていただいている花火は「長岡花火(写真②)」だから持っているんですよ。長岡という凄まじいポテンシャルのある花火なので、上に花火があって下に町があるっていう構図が可能なんですけど、普通はこの構図って立体感がなくなってくるんですよね。だからできるだけ湾を斜めに配置したり、町の光、主要幹線を真ん中に持っていって視線誘導したりとかするんです。
「びわ湖大花火大会」の写真(写真①)を見るとよく分かるのですが、真ん中の川が視線誘導になっています。左側の町の光の部分が幹線道路になっているんですけど、これも左下から真ん中に向かって視線誘導になっているんですね。
こういう花火に目がいくような立体感のある構図になるように考えています。
あとは、左端のところに写っている建物もあえて入れることで、額縁的に左側をおさえています。
上の部分の薄く明るく見えている部分の下部が、少しだけ暗く見えているのは山と空の境界線なんですけど、そこもあえて入れています。これを入れることで「そんな山の上の所まで花火が上がったんだ」と人間が無意識に感じるので、それを利用してこの構図にしています。
人間は理解していなくても、出されている映像情報で勝手に頭の中で色んなものを想定します。そのためは町の要素が必要なので、可能な限り町の要素をうまく使うっていうのは構図を決めるときに一番考えることですかね。
ーなるほど……。人間の視覚についてよく分かっているからこそできる構図づくりですね。



自信が無い人はできるだけ広く切っておくといいと思います。後でトリミングで対処できるので。
ーこういった、前後に奥行きがあるような花火の写真をあまり見たことがなかったのですが、写真でまた別の角度から花火が楽しめて、見る側としてはとてもうれしいですよね。



そうなんですよ。それが超望遠花火のいいところなんです。町を武器にできるという……。
花火を山から撮る方法
・音ではなく光で花火が上がるのを確認しながら、シャッターを切る
・構図は立体感を意識。自信が無ければ広めに撮っておくと◎
レタッチ


ーでは山からの撮影の最後に、レタッチについて教えていただきたいのですが、花火部分の撮影は水辺での撮影と同じでしょうか?



はい。花火部分のレタッチは同じです。
超望遠花火は、「町」という別要素が加わるんですよね。
なのでその町の周辺情報をどう生かすかということで、考える要素が増えるんですよね。
それで何をするかと言ったら、「花火を邪魔せず、花火を盛り上げるように町の部分を使う」んです。
町の周辺情報は「その場所でやっているということを伝えるための大事なサブ要素」で、まず考えるのは花火の色合いに対して、町の色合いをどうするかというところ。
大体花火が上側、町が下側になっていることが多いので、上と下でホワイトバランスが変えているときが結構あります。
ーそのホワイトバランスはどのように設定されているのでしょうか?



例えば、花火は炎色反応で赤やオレンジに振れている場合が多いので、その華やかな色を引き立てるために、町部分を青っぽく仕上げています。
「びわ湖大花火大会」の写真(写真①)は川に花火の光が赤く映っていますが、これは川の部分のレイヤーを作ってPhotoshopで追い焼きをして、大通りの部分には軌道を加えて、そっち側に視線が誘導されるようにしています。こんな感じで手が加わる場合が多いです。
「花火を引き立てるためには何をすればいいだろう」と逆算で考えて、ホワイトバランスを変えるときもあるし、光量を変える場合もあるし、明瞭度を変える場合もあります。「花火部」と「それ以外」で分離して考えるのが超望遠花火のレタッチです。
レタッチのポイント
・花火部とそれ以外で分離してレタッチの方向性を決める
・それ以外=町部分は花火を引き立てることを念頭に、レイヤーを切って部分的に調整する
撮影時の注意点


ー山の撮影で注意しなければならないポイントなどはありますか?



さきほども話しましたが、獣が近寄って来ないようにiPhoneで音楽を流しながら移動しています。野生生物が一番怖いので。
ーそうですよね。行きはまだ明るくても帰りは暗いってことですよね……。



もう真っ暗ですよ。絶対両手を空けなきゃいけないので、ヘッドライトを点けながら下山するんですけど、そのヘッドライトの光に闇の生物がいっぱい集まってくるんですよね(笑)。
ー想像するだけで恐ろしいです(笑)。山の装備もしっかり準備しなければならないですよね。
草むらを歩くような場合はヒルとか蛇も怖いですね。
ー遭難対策が必須なんですね。水や食料もそうですし。



水は重たいから本音では置いていきたいんですけど、それがないと遭難した場合に危ないので、ポカリスエットのようなスポーツ飲料を持っていく場合が多いです。予備で粉末のポカリスエットも入れておいています。万が一遭難して水がなくなっても、山の水を入れて飲むことができるので。あとは塩レモン飴も持って行きます。
ーそれくらい準備を万全にした方が、当日も焦ることなく撮影に集中できそうですね。
次回「煙編」に続きます!




別所隆弘さんの使用機材一覧
※GOOPASSで在庫があるもののみ掲載しています
レンズ
NIKKOR Z 20mm f/1.8 S


NIKKOR Z 35mm f/1.8 S


NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S


NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR


別所隆弘さんによるコラム・レビュー記事




▲別所隆弘さんによるMARSH連載コラム『シャッターを切る前の話』


▲別所隆弘さんによる打ち上げ花火の撮影テクニック解説記事


▲別所隆弘さんによるNikon Z 8レビュー記事



















