写真家・田中雅美さん解説!野鳥の撮り方Vol.6「野鳥撮影まとめと野鳥撮影の原点」

(編集:GOOPASS ANIMAL MAGAZINE編集部)
「思うように野鳥写真が撮れなくて悩んでいる」「これから野鳥撮影にも挑戦してみたいけれど、どんな機材を選んだら良いの?」という方は多いのでは?
そこで、FUJIFILMのX-ProphotographerやNHKのネイチャーカメラマンなども務める写真家・田中雅美さんに野鳥の撮影方法やコツをうかがいました。
今回は、連載の総集編としてこれまでのまとめ、田中さんが野鳥撮影を始めたきっかけや今後の撮影テーマ等についてお話しいただいています。
また、田中雅美さんの記事では、毎回撮影テーマに沿った撮影のコツや愛用機材を解説いただいています。

現在の撮影フィールド
現在の主な撮影フィールドは、北海道、奄美群島、八重山諸島、カナダBC州、NWT準州、周辺の5つです。
北海道

この写真は波と鳥が写るよう意図的にずっと狙って撮っていた1枚なので、思い入れがあります。
この海岸は、ジュエリーアイスが有名な豊頃町(とよころちょう)。もちろん撮影時期が異なるので、ジュエリーアイスはありませんが、この海岸は海鳥が集まる場所でもあるんです。
ユリカモメがきたり、ウミネコがきたり…。
使ったカメラは当時最新だった「FUJIFILM X-T3」。レンズは「フジノンレンズ XF200mmF2 R LM OIS WR」を使っています。
ジュエリーアイスとは…冬季に海岸に打ち上がる透き通った氷。それに朝日の太陽を入れる写真撮影が人気。


こちらの写真は白虹を写した1枚。白虹は偶然ではなく、気象条件的に出る日って必ずほぼ決まっているんです。
ここは帯広の、本当によく白虹が出る場所。白虹は珍しいと言われていますが、気象条件と場所が合えば狙って撮れるものでもあります。

上の写真は、月の位置を計算したうえで、狙って撮影した1枚です。
夕方なら月がこの位置に来るだろうと予測して撮影に行きました。待っていると、ちょうどフクロウが顔を出してくれました。

こちらはナキウサギ。この撮影も大変でした。どういうわけか、撮られるのが嫌だったのか、なかなか出てきてくれなかったんです。
この場所、次の年にはナキウサギがいなかったそうです。どうやら天敵に襲われてしまうようです。


石垣島

アジサシ系の鳥は、やはり飛翔が見事ですよね。フォルムが印象的。
これも狙って一生懸命カメラを振り回して、なんとか撮れた写真です。

上の写真は、私がここ数年テーマとして追っている「カタグロトビ」です。
後ろが完全な雲と、夕焼けの空。夕焼けと言っても太陽が落ちる前なので、金色の空で雲間から光が差し込んできたり…。変化が激しい空の中をホバリングしているシーンを撮影しました。
とてもかっこいい鳥なのですが、実はこのカタグロトビ、他の固有種より人気がない鳥なんです。その理由は、飼育されていた鳥がなんらかの理由で野生化した、いわゆる「カゴ抜け鳥」と言われているから。
東南アジアやアフリカなどから輸入したり、販売業者が売ったりしたものを買った人たちがたくさんおり、そのような所から抜け出したのが野生化のきっかけではないかと言われています。

こちらはクロツラヘラサギ。渡りの途中に沖縄にやって来るだけで、そのまますぐに韓国に行ってしまう、韓国で繁殖する鳥です。
まれに繁殖期に沖縄にいる個体もいます。ちょっと遅れて沖縄にやってくる子がいるのですが、鳥の首のところ、薄く汚れている部分が、繁殖期になるとものすごくきれいにな黄金色になるんです。
「その黄金色になっているときを撮りたい」と、みなさん言いますね。日本で撮るには、ちょっと遅れて来ちゃった子を沖縄で探してみると良いと思います。

見たことはありますが、撮れなかったです

野鳥や生き物は、あくまで自分の息抜きでやってるようなものなんです。やっぱり仕事として撮るとなると凄く疲れちゃいますよね。相手が生き物だと余計に疲れます。
生き物の撮影はとても神経を使うので疲れますが、その分、自分が追い込まれて頑張れる、良いものが撮れると思います。そういう意味ではやはり、生き物ってやめられません。
生き物の撮影をやめるときは、自分の写真人生ももう終わりのときかなと思います。ずっと趣味でやっていきたいジャンルですね。
極北

極北も私の代表的な撮影フィールドです。カラフトフクロウはやはり存在感が違いますね。
撮影しているのは-40℃の世界。そんな厳しい環境の中で普通に生きてます。
雪深い雪の下にいるネズミの音を、ずっとこのパラボラアンテナのような顔が拾っているんですよ。
ネズミが出す音をたよりに雪の中へ飛び込むのですが、そのシーンは迫力満点。
これまで雪の中に飛び込むシーンを何度か撮影しているのですが、ネズミを獲って飛び上がってくる瞬間を一度も見たことがありません。全部獲り損ねてるんです。
極北はそもそも撮れない場合も多いですね。

オナガフクロウやハクトウワシも外せない鳥です。オナガフクロウは極北ではポピュラーなフクロウなので、
必ずどこかでフラフラしています。動きが機敏で面白いのが特徴です。

極北に持って行くカメラで多いのは、マイクロフォーサーズ。
「マイクロフォーサーズってどうなの?」と思う方もいるかもしれませんが、本当に役に立つカメラです。
もちろん、どうしても高画素が必要な場合や、トリミングが絶対に必要な野鳥を撮るときは向かないと思いますが、それ以外は全く問題ないと思います。
特に画質の面では全く問題ありません。
番外編

コンポジット(比較明合成)はしていますが、偶然コウモリが月の中心を通ったときに撮影できた写真です。
飛んでいるのはキクガシラコウモリ。キクガシラコウモリは、満月期(おおよそ13月齢あたり)の月が昇り始める夕方から、活発に活動し始めます。
まさに「吸血鬼が来たな」というイメージ。
撮影しているのはコウモリが多く生息している河川敷です。
河川敷で待っていると、コウモリが高頻度で月の中を飛ぶんです。この写真は、何枚も撮影した中でコウモリだけをコンポジットした写真。月の中でコウモリが動いている動きを表現しています。

ナショジオに出せばよかったのにってよく言われます
合成と言われることもありますが、一枚一枚は合成ではありません。コウモリの動きを全て撮影して1枚です。
だから、コウモリが飛んでいるコース通りの動きが1枚に収まっています。面白い写真だと思いませんか?
みなさんたぶん、見たことないんじゃないかなと思います。

野鳥撮影の原点
今から39年前、偶然渓流で出会ったヤマセミが人生を変えてしまったと言っても良いと思います。24歳のときでした。
その後、12年をすべてをかけ、ヤマセミを撮り続け写真集を発刊。その時に経験したさまざまなことが今の糧になってます。

私の野鳥撮影は、カワセミ、ヤマセミ、それからアカショウビンにハマったのがきっかけ。ある意味、お決まりのパターンですよね。

私は若いときにはまってしまったので、本当に人生かけたカワセミ、ヤマセミでしたね。
アカショウビンはなかなか撮影することができなかったので、後回しになりました。最初は福島で撮影に挑戦していたのですが、撮影ポイントの条件が過酷だったためになかなか撮れず…。それで、沖縄での撮影が中心になりました。

ただ、とにかくカワセミ、ヤマセミにハマってしまったのが、私のスタート。
とある日、渓流の写真を撮ろうとして歩いてるときにたまたまヤマセミに出会いました。綺麗な渓流を撮り歩いていたときに、白いのがドバっとやってきたんです。
見つからないように隠れていたら、いきなり石のようにドバっと音を立てて水中へ飛び込んで…。そうしたら、20cmぐらいの大きなヤマメを獲ったんです。それがあまりにも衝撃的でした。
「こんな生き物がいるのか」と、本当に驚いたのを今でも鮮明に覚えています。
それからヤマセミを追うようになりましたが、最初の2年間ぐらいはまともな写真が撮れませんでした。
そして、7、8年同じ場所で撮影していたのですが、この場所ではうまく撮れないと判断し、別の場所を探すことにしました。その理由は、光をうまく使えない場所だったからです。
太陽の光があまり入らないような渓谷だったので、写真としてはあまり面白くなかったんです。
ただヤマセミが写っている写真ではつまらないと思ったんですね。
そこで、光が入る場所でヤマセミがいないかと思い、探しました。探し出すには、まずは河川を選びます。そして、今度はその河川を10kmほど探し歩きます。
ヤマセミは止まり木が絶対に必要で、必ずその止まり木にはフンやペリット(鳥類が口から吐き出す未消化のもの)が落ちています。
それを見つけたら、今度はもう待つだけ。そうやって、長い道のりをかけて良い場所を見つけていきました。
写真集にはその長く付き合ったなかでのいろいろな思い出を書いています。
カメラ機材もいろいろ買いました。当時の最新レンズ・初代のEF600mmは3本ダメにしました。今なら500万円以上するような高価なカメラも買いました。当時は銀塩(ぎんえん)なので、フィルムは1回36枚でしたね。
本当に相当、この鳥にはかけました。24歳から36歳まで、私の青春時代をすべてヤマセミにかけたと言っても過言ではありません。

上の写真は、私のヤマセミ写真でも奇跡と言える1枚です。
2月の1週間だけ極端に冷え込む朝、正面から太陽が出た瞬間、ヤマセミが魚を狙うため川にダイビングすると、川面が揺れて、燃え盛る炎のようになります。まさしくこの写真がそれでした。
手が震えシャッターがまともに切れなかったことを今でもよく覚えています。そして、このヤマセミはちゃんと撮影が出来るまで何回もダイビングしてポーズを取ってくれました。
36枚撮りのフィルムを現像してみると、わずか数枚だけ使える写真がありました。
このヤマセミの写真を撮る約2年前に、この場所は朝日が当たると川面が炎のように揺れる、ということに気付いたんです。
「ここだったら、すごい写真が撮れるんじゃないか」と思いましたね。
それなら、この時間ぴったりにヤマセミに来てもらえばいいと思って、ずっと待っていました。
この季節は毎日ブラインドに入って、この場所で待ち続けていました。川面の炎のようなゆらめきが真ん中に来るように、毎日テントの位置を1日15cmずつ移動させてそのチャンスを待ちましたね。
太陽は日々移動するので、それに合わせてテントを移動させるということです。
当たり前のことをやっていたんですが、これのフィルムを見た時はみんな驚いていましたね。

上の写真は、ヤマセミの息が逆光で美しく写った1枚。埼玉県の秩父の近くで、この日は-17℃でしたね。
このまま口を開けたら、まるでタンチョウのようでした。

ロウバイに止まっているカワセミの写真は、民家の庭に入れてもらって撮れた1枚です。
本当に、思い出がたくさんあります。
楽しいこと、辛いこと、私の人生の勉強はヤマセミに教えてもらいました。

それからアカショウビン。このアカショウビンは、今まで見た中で最も美しいアカショウビンでした。
この写真を撮った日に渡ってきたようで、くちばしも体も汚れておらず、とても綺麗な状態でした。これ以上綺麗な状態は見たことがないですね。
不思議なんですが、カワセミ、ヤマセミ、アカショウビン、この3種類はなぜかとんでもなく人気ですよね。
今後の展望

仕事を含めたメインの撮影はオーロラです。今年の11月に集大成といえる、あまり見たことのない作品集が発刊される予定です。
実はそれでオーロラ撮影もガイド業も終焉。オーロラを見に行くことは永遠に続くと思いますが、作品撮りとしては終わりを迎えました。
写真は好きでやってるので、これからも野鳥や動物、夜空で起こる光学現象等を撮影していくと思います。

ただここで大切なのは、それが‟=仕事ではない”ということ。
仕事で写真を撮っている商業カメラマンは別として、幼稚園のお遊戯会も学校の運動会も撮らなきゃいけないとなったら、作品撮りをしているカメラマンにとってはきっと面白くない部分が出てくると思うんです。
「自分の人生はそんなためにカメラを持ったのかって?」思っちゃいますね。もちろんそれが作品テーマなら良いと思います。
今後も好きなものを好き撮っていって、それに対して誰かがいいねって言ってくれて、それに対する対価を払ってくれるような人がいたら、それは嬉しいことです。
結果は後からついてくるものだと思うので、写真はあくまで趣味。今後も趣味として、のんびり楽しくやっていこうと思います。

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