写真家・田中雅美さん解説!野鳥の撮り方Vol.1「野鳥撮影の基本と心構え」

(編集:GOOPASS ANIMAL MAGAZINE編集部)
「思うように野鳥写真が撮れない」「これから野鳥撮影にも挑戦してみたいけれど、どんな機材を選んだら良いの?」という方も多いのでは?
そこで、FUJIFILMのX-ProphotographerやNHKのネイチャーカメラマンなども務める写真家・田中雅美さんに野鳥の撮影方法やコツをうかがいました。
今回は、野鳥撮影をするうえで知っておきたい【テーマ:野鳥撮影の基本と心構え】について、解説いただいています。また、田中さんの記事では、毎回撮影テーマに沿った撮影のコツや愛用機材を解説いただきます。
野鳥の生態を知る

野鳥をはじめ、生き物を撮影するならまずは生態を知ることです。絶対的にその子たちの生態をまず見なければいけません。
野鳥の場合、1年以上と、かなり長く生態を観察して、生態が分かってからでないと撮影しない撮り方をしています。
この写真は、広角レンズを使って下から撮る手法で撮影した一枚。

「結局どこにカメラを置いてるわけ?」「もしかして餌付けをしている?」と思われる方もいるかもしれませんが、この子が飛ぶコースを普段から見ていれば大体、どこを通るのか分かってきます。
これは、気に入った止まり木に向かって、餌を食べた後に飛び立っていく瞬間です。長い観察で、“このコースしか絶対に来ない”というのが分かっているので、そのコースにカメラをセットして撮影しました。
餌場があると大体、生き物はコース決めてやってきます。そこにカメラをセットしておけば、より良い作品が狙えるはず。
このような広角レンズを使った撮影をする際は、リモコンでシャッターを切りましょう。
自分自身は離れた場所で隠れてください。
野鳥を撮影するなら、生態をすごくよく知っておくこと。それによってどんな写真も可能になります。
最高の一瞬を捉える

ここで、いくつか私のお気に入りの写真をご紹介します。
上の写真は、私の代表作ともいえるカンムリワシの写真です。野鳥を撮影している人なら分かると思いますが、こっちを見て睨むよう表情はなかなかしてくれません。
普通は、こちらを見るより逃げるのが先ですからね。この時は、こっちを見てしばらく睨んでくれたんです。
この時、この子は地面に降りて、下にいるカニやミミズ、ムカデなどを探していました。私はじっとしたまま、しゃがんで狙って撮っています。
一番きれいな光が当たっている位置を探して撮った一枚

森の中は、光がない時は暗いので撮影が辛いですが、その反面、このような印象的な写真が撮れます。

この写真は、私の過去10年で、史上最大のネズミを捕らえているシーン。
ネズミを捕えているのは、日本で最大のサギ・ムラサキサギです。
どのくらいの大きさかと言うと、例えばアオサギが横に並ぶと、アオサギがまるで赤ちゃんのように見えるほど。そのため、このネズミはおそらく25センチ以上あるような大物です。
実はこの子、一度、途中までネズミを飲んだ後、呼吸ができなくなり苦しくなって、無理やり吐き出したんです。
その後もう1度挑戦して、ネズミを食べたんですけど、まあ大変そうでした。

朝まで動けなくなっていました…
この写真はこれまで見たことがないシーンの1つ。これもやっぱりほんの一瞬のことでした。
ちなみに機材は、マイクロフォーサーズと100-400mmの組み合わせです。この組み合わせだと、800mm相当で撮れるので、持っていると便利です。

こちらは、巣立った直後のヒナ(左下)を含めた、アオバズク3羽の写真。
アオバズクは、ヒナと一緒に撮るのが難しい鳥です。なぜなら、数日経つと、すぐに人の見えない所に行ってしまうから。
実は、以前立ち寄った際に、この木で繁殖しているのを偶然見つけたんです。
ちょうど別の撮影から帰る時に「この木、気になるから寄ってみよう」と見に行ってみることに…。するとちょうど3羽が止まっていました。
この写真もある意味、偶然撮れたようなものではありますが、繁殖していることに気づいていたからこそ撮れた写真ではないかなと思います。

こちらは、アカショウビンが飛び出す時を狙って、高速で追い撮り(被写体と一緒に動いて撮影すること)をしている写真です。
シャッタースピードを極端に遅くせず、カメラを動かすと、撮影しやすいかと思います。そうすると、目をある程度固定した状態で撮れます。
ちなみにこの写真は1/200秒で撮影しています。
シャッタースピードを遅くしすぎてしまうと、ピタッと目を固定するのは難しいです。
写真全体を止める場合は、少しズラしてフレーミングしておいて、鳥が飛んだ瞬間に連写で撮影しましょう。
カワセミ科の背中からのショットは一枚は抑えておきたいところ

まずはファインダーに入れる訓練を

上の写真は、繁殖の途中で日本に寄るクロハラアジサシの写真。クロハラアジサシは、かなり飛ぶのが速いので、撮影はとても大変です。
ファインダー内に入れることを100%意識しながら高速連写がマスト。
この写真は、取りあえず撮って撮って、撮りまくったなかの1枚です。

なかなかカッコイイのが撮れなくて、苦労しました…
このような写真は全て自分でファインダーで追いかけながら撮っています。飛翔シーンを上手く撮る1番のコツは、「画面・ファインダーの中に入れること」。
「照準器(ターゲットマークを被写体に重ねるだけで、被写体が画面中央に収まる撮影アクセサリー)を付けているか」とよく聞かれますが、私は、付けて野鳥を追ったことはありません。
ファインダー内で集中して追えば、大体のものは追えます。
ファインダー内に収めるコツは「ズームレンズを使って、引き気味にしておいて撮りながら望遠側にどんどん、どんどん、自分でズームしていくこと」。
この練習をするのが、上達の1番の近道のような気がします。
急に600mmF4などのレンズを使っても、まずファインダーに入れられないでしょう。最初は焦点距離300mmくらいの短いレンズから練習してみてください。
そして、短い焦点距離から大きい焦点距離までズーミングしながら訓練してみると、上手く撮れるようになると思います。
睨みを利かせるカタグロトビ

実は、ファインダーの中に野鳥を確実に収める合宿を、アマチュアのみなさんと一緒に行なっています。
どんな合宿かというと、AF性能がいまひとつな古いモデルを使った訓練です。
一つ前のモデルなどAFの性能がいまひとつなモデルを使って、野鳥を追う練習を何度もします。そうすると、あれよあれよとみんな上手になっていきます。
そして、追えるようなったら、自分の機材に戻すんです。「こんな簡単な事やってたのか」とみなさん驚かれますね。
このように、訓練をすれば必ず、良いものが撮れるようになってきます。
奇跡のシーンは存在しない!?

よく言われる、奇跡のシーンなんていうものは、存在しないと思っています。
例えば、下のような水上竜巻=自然現象は奇跡というか、本当にそこに現れないとどうにもなりません。これが50年出なければ、出た時は奇跡と呼んでも良いのかもしれませんね。

10年通って初めて見ました
風景は広角レンズを使いがちですが、望遠レンズ(35mm判換算400mm)で撮影すると竜巻のディテール感が出ます。

ただ、基本的には、奇跡のシーンだとか、こんな角度からこんなシーンはありえない、なんてことはないという考えで今までずっと撮影に挑んでいます。
野鳥の場合は、生態を長期間きちんと観察したり、ファインダーに収める訓練を常日頃からしていれば必然的に撮れるようになるはず。
カッコつけて、「努力すれば撮れるよ」、だなんて言うんですが、努力というより‟忍耐”です。生き物って忍耐があれば撮れますよ。
“ワンチャンスを絶対にものにする”気持ちが大切

この写真は、「左から当たっている光は一体なに?」と、FUFIJIFILMの公式サイトでも突っ込みがあった一枚。
野生動物にライトを当てていいのかって思いますよね。
実はすぐ隣がナイターをやってる野球場なんです。ナイターの光が当たるこの場所に、この子が来るまで待てばいいだけ。それが忍耐です。
毎日毎日頑張って待てば、来る時もあるかなと思います。
同行していたスタッフの皆さんはありえない、ありえないと言っていましたが、みんながありえないと言うほどのシーンでも、自然では起こる時は起こるんです。
だからその起こった時に、必ず絶対におさえなきゃいけない、絶対撮らなきゃいけないという、その意識だけを強く持って撮影に挑んでください。
絶対におさえる、絶対に撮る。バックアップはない。そういう気持ちで挑んでもらうといいと思います。
そういう気持ちでやれば、不思議と巡り合わせもすごくよくなります。このコノハズクの写真もそういうことが連続して起こった中の1枚です。
そういう気持ちでやれば何でもきっとやれます。
この時の撮影の際は、絶対に失敗しないように瞬間的に露出などの設定を変えています。このポーズで、10秒間くらいいてくれたので結構撮れました。
雨の日にもワンチャンスがある

雨の日こそワンチャンスを狙って撮影してほしい瞬間です。
上のカンムリワシは、シャッタースピードを少しスローにして、雨足を見えるようにして撮影しました。この日は大雨だったんですが、シャッタースピードは特別遅くはせず、少し早めですが、このような雰囲気で撮れました。
カンムリワシの写真に対して、下の写真は高速シャッターで雨を止めています。イメージが異なりますよね。

雨を止められるシャッタースピードにすると、ミルククラウンのように、激しくしぶきが水面から叩き上がって写りました。また、雨の激しさも出てきます。
雨と生き物の写真は、すごく絵になるので、私は進んで雨の日でも撮りに行きます。

雨降れ、雨降れっていう感じです
風景写真においても、雨の日が良い時はあると思いますが、やっぱり雨より晴れた青空がいいなあと思う方が多いのではないでしょうか。
一方、生き物たちは晴れと雨、どちらも相性抜群です。どちらもでも良い写真が撮れると思います。
特にアカショウビンと雨はすごく絵になるのでおすすめ。アカショウビンは別名、アマゴイドリと呼ばれるほど、雨との相性が良い鳥です。
雨の日に撮影する際は、防塵・防滴性能が備わったカメラ・レンズを使いましょう。
ちなみに、カメラの雨対策はほぼしません。カバーなどをつけると、瞬間的に撮れないからです。
もたついた瞬間に、本当だったら撮らせてくれたものが、撮れなくなってしまう。自分のほうからワンチャンスを裏切ってしまうと、次、撮らせてもらえないんですよ。すごくそういうことがよくあるんです。
だから、ワンチャンスは絶対にものにするという考え方のもと、雨の日も特に対策はしません。
撮り方としては、雨の場合はスローと止める撮影の2種類があるので、両方とも欲張ってチャレンジしてみてください。


今のカメラだからこそできる作品にもチャレンジしてみて

こちらは私の代表作。このようなカメラに向かって飛んでくるシーンは今のカメラだからこそ、撮れます。
数年前までは、向かってくる鳥にAF-Cが追尾しませんでしたが、最近のミラーレスなら、ファインダーの中に入れられさえすれば、動物や鳥にピントが合います。
今のカメラのAFなら楽勝です。

近い将来は自動でフレーミングしてくれるとか…

また、野鳥以外に、テーマとして追いかけている被写体に「ヤエヤマオオコウモリ」がいます。
ヤエヤマオオコウモリは大きさ、約60cmの大きなコウモリ。羽を前にたたんで木に逆さまにぶら下がってる姿は、バットマンそのものです。
コウモリは、鳥ではなく、動物ですが、動きや飛び方がとても複雑です。今のAI認識AFでもコウモリは追えません。面白いことに、鳥の設定しても鳥にならない、動物の設定にしても動物と認識しません。
ヤエヤマオオコウモリを撮る時は、実は、AFの認識を「飛行機」にしてるんです。飛行機でたまにピントがきます。
このようにAIでもまだ追えない生き物はいますが、野鳥なら大体のシーンが撮れるので、ぜひチャレンジしてみてください。

撮影シュミレーションをしよう
自分が撮りたいと思ったものがあったら、絶対に諦めないという心構えにプラスして大切なのが「シミュレーションをすること」。
私は、日夜自宅でシュミレーションをしています。
紐にタワシを結んで、びゅんびゅん部屋の中で回してカメラで追ったり…。
協力してくれる人がいれば、キャッチボールをしてもらって、キャッチボールの球を追ってみても良いでしょう。
カメラを持って、野球でいう審判(キャッチャーの後ろ)の位置に立ち、ピッチャーの球すべてにピントが合わせられるように、球を追う練習をしてみてください。
一人で練習するなら、大通りがおすすめです。国道や大通りの歩道橋の上から、走る車やバイクを追ってみましょう。
また、この訓練はカメラのAF-C性能も見極められます。

あまり通りが少ないと盗撮に間違われるので気をつけて
これらの練習は、画面の中に野鳥を入れる訓練になります。その訓練をやった人とやらない人では、格段な違いが出ます。
最初は、道に対して横にカメラを構えて、横の流しから始めてみてください。バイクを横でファインダーに入れていくことから始めみましょう。
そうして、だんだん、自分が道側に出て行って、バイクに対して縦で合わせられるように練習してみてください。
魚を捕まえて素早く移動するミサゴ

その際には、必ずAF-Cが追従するかどうか確認してください。追従できない、不安定なカメラは、一発勝負の時には使えないカメラだなと私は認識しています。
そうやって訓練しながら撮っていった写真には、やっぱり、すごいと言われるようなものが必ずできます。
人より、ひと皮むけた、ふた皮むけた写真が必ず撮れるようになります。
絶対に決めるという意志を強く持ち、その時に絶対失敗しないために、ぜひ訓練をしてみてください。
これから野鳥撮影に挑戦したい人はズームレンズを選んで

どこのカメラメーカーも、1番ハイエンドのモデルが購入できる人は、最初からそれを選んでいいと思います。
ただ、予算が限られていたり、まずはかじってみたいという人は、ボディは予算に合わせて無理なく選びましょう。
問題はレンズです。注意点としては、絶対に最初から単焦点レンズを買わないこと。
最初はズームレンズを選んで、まずは短い焦点距離からから慣れていくことが重要です。これが1番、成長が早いと思います。
野鳥の方がちょこまかちょこまかとしていて動きが速いので、ほかの動物撮影以上にズームレンズを使って慣れていくことが必要です。

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この記事で使用された機材
FUJIFILM X-T3

フジノンレンズ XF200mmF2 R LM OIS WR

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