著書の中で荒木夫妻が冬に松葉を訪れていて、菊正宗の熱燗を片手にわさび芋と、そしてお目当てのにしんそばを食べている描写がある。
その様子を想像するだけでたまらなく美味しそうに感じられ、私が訪れたのは夏だった為ビールを片手ににしんそばを食べると決めていたのだ。
そして、せっかくなのでとことん夏らしく冷やしにしんそばを注文した。
冷たい蕎麦にとろろ、そして甘く煮詰められたにしんがとてもよく合う。
ビールと一緒にきたしぐれ煮も、山椒が効いていて美味しい。
確か十年ほど前に一度だけにしんそばを食べたことはあったのだけれど、その頃はまだ具材のほとんどないこのシンプルな味わいをそれほど理解していなかったように思う。
蕎麦にビール、この組み合わせを好むようになるなんて、自分も少しは大人になったのかと昔を思い出しながら、今回は格別に美味しく感じられた。




今回の旅には、Nikon FM2というフィルムの一眼レフカメラを持ってきていた。
これは大学の写真学科へ入学し、最初のフィルムの授業で貸し出されたカメラだった。
写真学科の新入生は全員、絶対にこのカメラを使うことになっていた。
シンプルな機能で使いやすく、一眼レフの仕組みや露出を学ぶにはちょうど良いカメラだ。
大学卒業後、お世話になった先輩がもう使わないからと譲ってくれた、思い出の一台でもある。
京都出張中、仕事で撮影のある日はずっとデジタルカメラで撮影していた為、休みの日用に気負いせずに使えるカメラをと思い、東京から持ってきていた。
海外旅行へいくときなども、一台だけ一眼レフを持っていくならよくこのカメラを選ぶ。
金属製で丈夫な割に軽く、電池が切れてしまってもシャッターが切れる。
(Nikon F3などは電池が切れると緊急用シャッターしか切れないので)
私にとって、大学に入ったばかりの頃の新鮮な気持ちを思い出させてくれるカメラだ。
「カチョン」というシャッター音がとても可愛い。



今まで京都へは何度か来たことはあったけれど、仕事か展示の為など明確な目的がある場合にしか訪れたことはなかった。
それも長くて2〜3泊ほどだ。
今回のように2ヶ月近くのんびりと、旅行や出張というよりは生活をすることができて、以前よりもずっと京都が好きになった。
荒木夫妻がたびたび京都の街へ訪れていた理由がよくわかったような気がする。
年齢を重ねれば重ねるほど魅力をより感じられる街だ。
またカメラを持って、何度でも訪れたいなと思う。
著者紹介:髙木 美佑(たかき・みゆ)

1991年生まれ、東京都在住。 日本大学芸術学部写真学科卒業。セルフポートレートや 自己の体験を中心に作品制作を行う。
2020年12月に初の作品集『きっと誰も好きじゃない。』を刊行。
■WEB:https://www.takakimiyu.com/
■Instagram:@miyu.takaki
■Twitter:@2h35m
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