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シャッターを切る前の話【第10回:記憶と記録(2023年1月24日,25日の大寒波の日に)】

(元々は連続ツイートだったものをMARSHに転載した記事です。記事化にあたって誤字脱字といくつかの表現を修正。)

10年に1度と事前に予測された大規模な寒波が関西を襲った昨日から今日にかけての記憶と記録を残す文章を書いています。いつか未来のために。自分が迷った時のために。

2023年1月24日の夕方15時を過ぎた頃、僕の住んでいる滋賀県大津市に雪が降り始めました。最初はちらつくほどだった雪は瞬く間に凄まじい勢いになり、

17時を超える頃にはあたり一面が真っ白になりました。

その頃僕は、寒波の予測を見て京都でいくつか撮り逃していた雪の被写体を収めようと準備していたのですが、すでに国道が渋滞の気配を見せ始めていたので、これは夜中まで待った方がいいかもしれないと思い、一旦出発を取りやめます。後から分かりますが、これは半分ミスで半分正しい判断でした。

半分ミスというのは、この後雪は猛烈な勢いを見せ始め、人生でおそらく短時間に降った雪としては最大の積雪が僕の住んでいる地域に降り注いだために、京都への道が完全に塞がれてしまい、大津がさながら陸の孤島のような状況に陥ってしまったことでした。撮影タイミングを完全に逸してしまったのです。

18時の段階では10分に1センチは積もってるんじゃないかという猛烈な吹雪。あたりは完全にホワイトアウトで、車は一気に動けなくなる状況へと変貌しました。最初に国道1号線が19時までに麻痺。逢坂山でスタックする車が頻発したことが原因だったようです。

続いて高速道路、そして湖西バイパスが深夜までに通行止めになりました。この時点までに京都に向けて出発していれば撮影は可能だったのかもしれませんが、深夜を超えたあたりから、これは行かなくてよかったかもしれないという気持ちの方が大きくなってきました。

僕はすでに多くの京都の雪の絶景を収めていますし、リスクとリターンを天秤にかけた時、二次災害を発生しかねない状況で無理に撮影に出るのは、ちょっと避けた方がいいかなと考えました。

そんなことを考えている間にも、交通状況はさらに機能不全の状況を深めていき、道路のみならずJRを含めた鉄道も運行中止に追い込まれていきます。知人は電車に4時間閉じ込められたとのことで、今回の寒波の激しさを物語ります。車にはわずか6時間ほどで30センチ近くの雪が積もりました。


ニュースを見るたびに、窓から外を見るたびに悪化していく状況の中、わずかに残っていた「もしかして行ける?」という気持ちは急速に萎んでいき、深夜3時を超える頃に眠り込んでしまいました。気づいた時には朝の7時でした。

家を出て国道1号線に合流する京阪の電車道を見ると、深夜2時ごろと全く状況は変わっておらず、ほとんど車は動かないばかりか、道路の途中で動けなくなった車のために、路面電車の運行まで支障が出ている状況でした。二日目の朝にここまで混乱している状況を見るのは初めてでした。

ただ、この辺りから状況は徐々に好転していきました。太陽が出始め、路面の状況がよくなっていくとともに、交通が流れ始めました。25日の15時を超える頃には、見る限りはほぼ車は流れるようになりました。その辺りで雪のピークは過ぎ去ったものと思われます。

ちょうどその頃、京都に撮影に行けなかったこともあって、なんとなく手持ち無沙汰になった時間に、ふと、地元の状況を残しておこうと、カメラを持ち出して街中を撮影したのが、以下からの写真になります。

最初に向かったのは、中学高校の間、自分も通学の足として使っていた地元の路面電車の駅でした。交通が麻痺しているために、何度も車が電車の通行先に入ってしまうような状況になっていました。路面に入った車へ鳴らす電車からの警告のクラクションを、こんなに短時間で集中的に耳にしたのは生まれて初めてでした。

ですが見ていると段々とその光景は、静かな驚きと感銘の感覚に変わっていきます。このような交通状況にあっても、インフラを維持するために可能な限り整然と、秩序をもって電車が運行されていました。車に当たるスレスレに見えるのですが、何度行き交っても事故が起きるようなことはありませんでした。

またそれは、電車だけではなく一般の車にも言えます。大渋滞の中でイラついているはずの運転手も、救急車が来ると可能な限り道を開けて、その運行に支障が出ないよう、皆が協力している姿を見ることができました。ここまできたら大病院は目と鼻の先です。怪我や病気の人たちがすぐに回復されますように。

こうして僕は、我々が生きる「日常」という物語は、一人一人のほんのわずかな善意や努力の上に成り立っていることを知ります。それは逆に言えば、ほんのわずかな悪意で我々の日常は簡単に崩れ去るということなのでしょう。今の日本は、まだそのバランスを保っているのですね。

この間、天候は気まぐれで、驚くほどの青い空を見せてくれたかと思うと、

昨晩を思わせる曇天へと逆戻りすることもありました。

そんな中で歩きながらシャッターを切り、「ああ、そうだ。この日のことは今のうちに残しておかねばならない」とちょうど思っていたとき、

北海道の友人からメッセージが来ました。

京都に行けなかったから、家の周りを撮っているというと、彼はこう返事をくれました。「記録の記憶」。

久しぶりに、シャッターを切る指が嬉しくなったのを感じました。上の方で「半分ミスで半分正しい判断」と書いたのですが、半分正しかったのはこれでした。たまに訪れる恩寵のような瞬間。

防寒具を突き抜けてくる寒さと、手袋忘れて触感を失った痺れる指に、じわっと感覚が戻ってきます。もうそろそろ体が限界と思いつつも、いつもと違う姿を見せる地元の記憶を残します。特別でない場所の特別な日の記録。

今日、豪雪に包まれて色を失うこの神社も、春が来ると目も眩むような満開の桜が咲き乱れます。

そういえば、そろそろパスポートの更新をしなくては行けません。その時僕はこの場所に来るのでしょう。

歩く先の全てに、自分の生きてきた過程が記憶とともに残っています。それは僕だけではなく、全ての人にとって同じことで、普段は見えない記憶が層になっている場所で、僕らは日々生きている。一枚の写真に過去と現在と、そしていつか見る未来が重なっている場所。それが大雪の日に僕が見た光景でした。

決して絶景ではないけど、それがなければ写真を撮る意味さえ見出せないような、そういう光景。大寒波から不思議な道筋を経て、そんなことを感じる至った記録を、ここに置いておきます。

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この記事を書いた人

フォトグラファー、文学研究者、ライター。関西大学社会学部メディア専攻講師。毎日広告デザイン賞最高賞や、National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストであるNature Photographer of the Year “Aerials” 2位など、国内外での表彰多数。写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。滋賀、京都を中心とした”Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。日経COMEMOで記事執筆中。フォトグラファーとしての知見を活かして、インバウンドや地方創生事業、SNS運用のコンサルタントなどにも関わる。