お世辞にも、仲の良い家族とはいえなかった。
母は意志の強い頑固な性質で、父は度が過ぎるほどのお人好し。
弟は体育会系の巨人で(幼稚園を出る時に身長150センチあった)、僕は気難しいサブカルオタクぎみの陰キャ長男。
よくもまあ、こんなに合いそうもない個性を集めたものだと、今になって思う。
いつも機能不全だった家族の中から、父が最初に離脱した。
数年前にこの世を去った。
僕がちょうど40になる直前。
その直後に飼っていた犬も死んだ。
弟は30になる頃に家を出ていた。
今実家に残されているのは、老いた母だけで、歳も歳なので長男の僕が気をつけるしかない。
そうやって、かつて合わない個性がただ衝突するだけだった実家は、今ではただ、そのような家族の肖像がかつて存在していたことの縁として、静かに最後の時間を終えようとしている。
そう長くない未来において母もこの世を去るだろう。
僕だってもう、いつ死んでもおかしくない。
かつてあれほどうんざりするようなことばかりエンドレスで起こっていた家庭内のいざこざも、引き継ぐものが全て死に絶えた時、この世界にそんな騒動も家族も最初からいなかったかのように消え去るのだろう。
小説『百年の孤独』の最後で、アウレリャノが騒々しいマコンドーの街とその100年の記憶と共に消え去ったように。

文学史に残る大傑作『百年の孤独』は、その冒頭において、「離れ業」のような一文を読者に開陳する。
「長い歳月が流れて銃殺隊の前に立つはめになったとき、恐らくアウレリャノ・ブエンディア大佐は、父親のお供をして初めて氷というものを見た、あの遠い日の午後を思い出したにちがいない。(ガブリエル・ガルシア=マルケス、『百年の孤独』、鼓直訳(新潮社、2006))」
未来における死の瞬間から、現在を顧みる仮想の視点を構築するという、何重にも入れ子構造になったメタ時間感覚を、たった一文で描き出したのだ。
22歳で初めてこれを読んだ時、僕はそのめくるめくような分厚い時間感覚に放り込まれ、酩酊したような気分になりながら、自分にとっての「父親のお供をして初めて氷というものを見た、あの遠い日の午後」に似た記憶があったことを思い出した。
それが、小学生の時に開催された、第一回の琵琶湖花火の記憶なのだ。

その日も、父と母はいつもの通り仲がよろしくなく、弟はいつものように巨人(繰り返すが、幼稚園で身長150センチを記録していた)で、僕はいつものように不機嫌で不寛容な気分を持て余していた。
それでも、花火が始まる直前の時間に、琵琶湖に向かって家族と一緒に歩いて出た時、珍しく高揚するような気持ちになっていたのだ。
街には人が溢れ、「巨大な花火が上がるらしい」という、どこからともなく流れてきた噂が、ふわふわと道ゆく人たちの頭の上を漂っていた。
街全体が気持ちよく酔っ払っているような、そんな夏の夜だった。
あまりにも道が混んでいて、どうも花火開始までに琵琶湖岸にまで行けなさそうだとなった時、いつものように母親が怒り始めた。
準備に手間取ってモタモタしていた父親(父はいつも準備に手間取ってモタモタする人だった)を待っていて間に合わなかったのだ、うんぬんかんぬん。
また始まった…せっかくの高揚した気持ちが萎みそうになったその瞬間、ビルとビルの間に巨大な花火が炸裂した。
おそらく、今なら「しょぼいなー」とでも言いそうなサイズなのかもしれない。
でもその時僕は、初めて「打ち上げ花火」というものを目にしたのだった。
県道の両側に並んでいるビルとビルの間から、大きな大きな花火が上がった。
言い争いになりそうだった父と母も、上を見て楽しそうだった。
巨人の弟も楽しそうだった。
人で溢れる道で離れ離れにならないように、母が弟の手をひき、父が僕の手を引いて、ゆっくり琵琶湖に向かいながら、次々と頭上に上がる花火を見て、この後何十年にもわたって一度としてうまく交わることのなかった小さな家族は、その時、同じ空を見て、多分同じような高揚感で琵琶湖まで歩いて向かった。

桜の記憶と一緒に、僕を今まで生かしてくれたもう一つの記憶。
その記憶は、アウレリャノにとっての氷の記憶のように、僕が死ぬ時に思い出すものの一つだろう。
父はすでにおらず、母も多分その時にはもういないだろう。
僕が死ねば、あの時この一家が、ほんの少しの時間同じ空を見て、同じ気持ちになったあの日の奇跡は、語られなかった夢のようにこの世界から跡形もなく消え去るだろう。
他の多くの記憶と、魂のように。
それがほんの少しだけ、耐えられないのだ。
だから、フォトグラファーとして走り出した時、そのあたたかさの欠片を僅かでも残そうと思った。
小さな家族のささやかな邂逅の記憶を、いつか誰かが見上げてくれることを願って。


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