三ノ輪という街へは初めて訪れた。
大通りから一本道を入ると、閑静な住宅街だった。
アラーキーのご実家の前にある浄閑寺は、当時身寄りのない遊女などの遺体が投げ込まれたことから投げ込み寺と呼ばれている。
吉原遊郭が近かった為、関東大震災や東京大空襲で多くの遊女が亡くなった際にもこの寺で無縁仏として
葬られたそうだ。寺の境内には慰霊塔もある。
また、この地域は昔、日雇い労働者の方々も多く住んでいたそうだ。
荒木夫妻のマンションに風呂がついていなかったのも、その名残ではないかと思う。
アラーキーが家の目の前にある1番近い銭湯へ行きたがらなかったのは、それが理由だった。
そこの男湯は特に季節労働者の方々が多かったそうだ。
昼間から酔い潰れて道で寝ている人も多く、決して治安の良い街ではなかった、と陽子さんは綴っていた。
今ではそんな気配は微塵も感じられない。
私が博識ではないせいもあるかもしれないけれど、そういった過去があった場所のようにはとても見えず、静かで平和な街だ。




日本はとても小さな国だし、その中でも東京都は特に小さい。
そんな狭い東京都の中にも、まだまだこんなにも知らない街があることに驚く。
更に、その街を歩いてみると気づくことがとても多い。
そんなときにカメラを持っていると、ほんの一瞬でさえも立ち止まるきっかけができる。たとえ1/500秒だとしても。
おまけに写真の記録までできるのだから、素晴らしいツールだなと思う。



銭湯で汗を流し、近くの酒場でビールを飲んだ。
アラーキーが育ち、そして二人が新婚時代を過ごした街。
その空気感を、私が少しでも感じ取れていたら幸いだ。


著者紹介:髙木 美佑(たかき・みゆ)

1991年生まれ、東京都在住。 日本大学芸術学部写真学科卒業。セルフポートレートや 自己の体験を中心に作品制作を 行う。
2020年12月に初の作品集「きっと誰も好きじゃない。」を刊行。
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