写真家・井上浩輝さん解説!野生動物の撮り方Vol.1「キタキツネ」をもふもふに撮るには

(編集:GOOPASS ANIMAL MAGAZINE編集部)
これから野生動物を撮影してみたい方の中には、「どこに行けば野生動物に会えるの?」「どうやって撮っていいか分からない…」という方も多いのでは?
そこで、米誌「National Geographic」のフォトコンテスト『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』ネイチャー部門で日本人初の1位に輝いた、世界中からも注目されている写真家・井上浩輝さんに野生動物の撮影方法をうかがいました。
今回は、井上さんのライフワークでもある【テーマ:キタキツネの撮り方】について、詳しく解説いただいています。また、井上さんの記事では、毎回撮影テーマに沿った撮影のコツや愛用機材を解説いただきます。

キタキツネが最も"もふもふいきいき"する季節は?
キタキツネが冬毛でもふもふする時期は11月~3月中旬頃まで。
特に2月から3月はキタキツネの恋の季節でもあります。
そんな時期に一匹でうろうろしているのは、オスであることが多く、パートナーになるメスを探しています。
2月下旬~3月上旬までは、オスとメスの2匹でいるところに遭遇できる可能性が高まります。
井上浩輝さんもふもふを狙うなら11月から!
冬のキタキツネはどこにいる?

ご存知の通り、キタキツネは北海道に広く生息しています。
例えば、冬の北海道に行って雪景色やダイヤモンドダストを撮りまわるとき、その合間にキタキツネも探してみて、出会うことができたらぜひ撮影してみてください。
キタキツネたちの姿を本当に見つけることができるのか聞かれることが少なくないのですが、草や木々の葉がなく、畑の農作物もない見通しが良い冬こそ彼らを見つけやすい時期といえます。
また、雪が積もると、彼らの足跡を見つけやすくなります。
井上浩輝さん足跡に注目すると出会える確率が上がります
上のモノクロームの写真には、キタキツネの足跡だけでなくエゾユキウサギの足跡もついています。エゾユキウサギを追うキタキツネでしょうか。
エゾユキウサギは「止め足」といって、足の向きを変えながらランダムに飛ぶことがあり、追っ手のキタキツネをかく乱させることがあり、そんな行き先がわからないような足跡があったり・・・、キタキツネはエゾユキウサギを一生懸命探すので、雪の丘々には彼らのウロウロしたような足跡がたくさんつきます。
もし、一直線に足跡がいく筋もついているなら、そこがキツネの通り道。一回通ったら、その後2、3日通る可能性があるので、その場所に張り込むとよいかもしれません。
素敵な丘があったり、抜けが良くて向こうに山並みが見えるような場所に足跡がついていれば、僕はそこでずっと待つようにしています。
効率よくキツネを撮影するには?

キツネは個体によって性格が全然違うので、数メートル先を平気で歩く子もいれば、200m先で人間を見つけて逃げていく子もいます。
冬のキツネを撮るのに最も効率的な方法は「車の中から撮る」こと。
かまくらを作ったり、白いテントを立てたりして撮影していると思っている方もいるかもしれませんが、それこそキツネたちにとっては違和感。
キツネって人間が生活しているところと深い自然の中との境界線によく行くんです。だから、彼らは人間の生活をよく見ています。
車は危害を及ぼしてこないから、警戒する対象にならない。歩いている人間はなんだか怖い。もっと怖いのは昨日までなかった、テントがいきなり出てくることです。
だから車の中から狙うのがベスト。

ところが、車での撮影には問題が二つあります。
一つは、車の中からそのままカメラを構えると、撮る位置が高くなってしまうこと。上からハイアングルで撮ることになるのでかっこ悪い写真になりがちです。
できれば、キツネの目線と同じ目線で撮影したいですよね。
キツネと同じ目線まで下がって撮影するには、間合いを詰めていって、車から降り、キツネと同じ高さで撮っていいのか、キツネとやりとりしないといけません。

もう一つの問題は、車の中が暖かいこと。
空気は温まると膨張します。例えば、冬の日を想像すると気温が-10℃、車内が10℃の場合。その温度差は20℃にもなります。
それだけの空気が膨張すると、空気自体がレンズのようになってしまうんです。暖かい車から外に向かって撮ると、そのせいでピントが合わなくなることがあります。
そのため、撮影するときはレンズの前玉を車外に出しておきましょう。
この問題、知らなかったという方も多いのでは?
運転席でキツネを探すなら、運転席と後部座席の対角線の窓と、助手席の窓の両方を空けておくこと。空気の通り道を作ってください。
また、車内の温風は切りましょう。シートヒーターだけをつけると良いでしょう。
井上浩輝さんこの問題は夏より冬の方が深刻…
雪の中の撮影は露出を「+」に
雪の中で撮影する場合、露出を「+」に補正しましょう。
カメラ任せに撮ってしまうと、カメラの仕組み上、白い雪がグレーっぽく写ってしまいます。
ぜひ自身で、雪の白さを意識して露出を調整してみてください。雪を完全に白く飛ばしても良いでしょう。

明るい時間帯は、雪の表面さえ見えないほど眩しい白が存在します。
人間の認識する光は相対的なもの。何かと比べて今どれだけ明るいかを目で見ているので、絶対的なデータの取り扱いはかえってしない方が自然だと思います。


ミラーレスのカメラなら、ファインダーの中で撮影結果が見えているので、ファインダーを覗いて白飛びしないギリギリの明るさで撮るとよいでしょう。
動物を撮っている時はヒストグラムを見ている暇はありません…。ファインダーで充分です。
最近のミラーレスカメラは、ダイナミックレンジが広いので、多少明るくとっても大丈夫。
心配だったら、暗めに撮っておくと◎。その意味ではRawデータで気持ちアンダー(露出を暗めにすること)撮っておくと安全です。
ただし、撮って出し(JPEG)が良い場合は、やはりファインダーを見て適正な露出を決めましょう。
“ぽつん”の表現も意識してみよう

撮影した写真はSNSにアップする方も多いかと思います。
SNSでもてはやされる動物写真の傾向からすると、トリミングをしたり、超望遠レンズで狙ったりと、ついアップにしたくなります。
でも、アップの写真ばかりそろえてしまうと、もしかしたらつまらないかもしれません。
広大な雪原をぽつんと歩くキツネは、まさに「孤高のキツネ」のイメージそのもの。
ときには、引きの構図にキツネがいるのも撮ってみては?
遠いから諦めるのではなく、この構図のどこにキツネを配置したらかっこいい写真に仕上がるか考えながら撮ってみると、カットにバリエーションが増えて面白くなります。
冬のキタキツネをもふもふに"撮る"には?
まず、カメラ内のクリエイティブルックなどでシャープネスや明瞭度を高める設定は派手にしないこと。
現像する際もそれはあまりしない方が◎。毛がガビガビカピカピになります。
逆に、明瞭度を落とした方が"ふわふわもふもふ"に見えることが少なくありません。

ピントがあった場所はシャープに、そうじゃないところはもっとふんわり見えるように現像するのもよいでしょう。
もふもふ感を機材で出すなら、F値の小さいレンズを使うのがよいです。70-200mmF2.8や300mmF2.8、400mmF2.8がおすすめです。
135mmF1.8も素敵なのですが、単焦点であることと少し焦点距離が短いので、うまく撮れたらバッチリですが、ちょっと距離が遠くなってしまいがちになるかもしれません。
井上浩輝さんもふもふを機材で表現するならレンズが重要!

上の写真は70-200mmF2.8。目にピントが合ったら、耳辺りから滑らかにぼけて、ふわふわしていますよね。
100-400mmはF値が大きいので、70-200mmF2.8よりシャープにカリカリして写ります。


上の写真は、「SONY サイバーショット DSC-RX100M6」を使って、35mm判換算:40mmくらいで撮っています。目にはピントが合っていて、他の部分がフワッとぼけていますよね。
コンデジ「SONY サイバーショット DSC-RX100M6」はイチオシです。

上の写真は、400mmF2.8ならではの写り。一度使ってみると面白いと思います。とろけるような描写が魅力です。

こちらも400mmF2.8。手前の大きな玉ボケは、実はチェーンなんです。池に人が落ちないよう張ってありました。
この時は、公園の中で撮影していたのですが、遊歩道と池の間のチェーンがたまたまキラキラしていたので、ステキな玉ボケになりました。これができるのは大口径単焦点レンズならではですね。
井上浩輝さん初心者の方は、必ずしも大口径じゃなくても◎
例えば美瑛や富良野に行って、霧氷やダイヤモンドダストを朝狙う。キツネたちが歩き出すのは13時頃なので、風景でも使う70-200mmF2.8で、午後はキツネを狙ってみるのがおすすめです。
ちなみに、日が沈みだすのは15時頃。せっかくの北海道、2時間はキツネの撮影に費やしてみてはいかがでしょうか。
撮影モードはマニュアル(M)
撮影モードはマニュアルを使っています。まずF値を考えて、それとほぼ同時にシャッタースピードを考えます。

走っている哺乳類(キツネ)なら1/1250秒、野鳥なら1/2500秒、羽ばたきを止めるなら1/4000秒…、といったことを考えて設定しています。
結果的に、ISO感度はなりゆきでよいのでAUTOに。下限は100や200に、上限はカメラごとのセンサーや画像エンジンの特性を考えて決めています。
場合によっては、ISO1600の時も、カメラによっては3200や6400のときもあります。
動物を撮った直後に絞って慎重に風景を撮り、移動中に動物を見つけて早いシャッター速度で連写!など、様々なシーンを撮影することになるのが北海道のネイチャー撮影のたのしいところ。
その意味ではマニュアルモードに指を慣れさせるのがよいと思って練習を重ねてきました。
いまでも新しいカメラを手にしたときは指使いの練習をしています。
「できるだけ撮る時に考えることを減らす」、そのためのISO AUTOを使ったMモード撮影です。
後で何とかなるなら後で何とかして、その分、現場でできることを増やしたい、そう考えています。

Q&Aコーナー
『井上さんに直接質問しちゃおう!』

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(例)
次回のテーマは『エゾシカ』
1月25日(水)公開予定

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この記事で使用された機材
SONY FE 70-200mm F4 G OSS SEL70200G

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