サルコイドーシスという病気になってしまい、珍しく病院通いの日々が続いた2月。もう、いつ死んでも良いと思っている自分にとって、不安はそこまでなかった。久しぶりの病院で、先生から何を言われるのか興味関心のほうが大きかった。

一旦、最後と言われた診察の日。時刻はAM9:48。僕が診てもらっているのは呼吸器内科というところなのだが、ほかにも呼吸器外科・循環器内科・心臓血管外科などがあり、各科の受付はコの字型に並んでいた。コの字の中央部分に4人座れるベンチがある。横5列、縦5列、さらに別で20席ほど用意されており、合計120人〜130人は座ることができる。
この日は8割ぐらい座っていた。正確にいうと、この日も、だ。少なくとも僕が病院へ行くときは常に90人ぐらいの人たちがいる。


日本人の特徴のひとつなのかなと思うのだが、ほかの席は埋まっているのに各受付の目の前の席は空いている場合が多い。このような光景を見ると講演会や大学の授業を思い出す。先生の目の前の席だけがぽっかりと空いている、あの光景だ。

今回も受付の前の席だけが空いていたので、そこに座ることにした。
ひとつ席を開けた隣にはおばあさんが座っていた。4人座れるベンチに僕と合わせてふたりだけ。
おばあさんは僕が座ろうとしているときからぶつぶつと文句を言っていた。どうやら朝イチで待っているにも関わらず担当の先生が呼ぶのはほかの人ばかりのようだ。

次もその次もさらにその次も。おばあさんが呼ばれることはなかった。
「これで何人目だよ。朝から来た意味がないじゃない」
昔の自分だったらこういう人が近くにいると、すぐに席を離れるようにしていた。ネガティブなオーラを受け取りすぎてしまうというか、まあ、近くにいて良い気分はしない。

痺れを切らしたおばあさんは席を立って受付に向かった。おばあさんは受付の方に文句を言い続けた。あっという間におばあさんのうしろには受付を待つ人たちが3〜4人、並んでしまった。
「担当の先生に確認するのでお待ちください」
文句をひとしきりいうと隣の部屋から先生が受付のほうにやってきた。先生は前回の診察で今日は担当の先生が違うということを伝えたと言っている。でも、おばあさんはそんなこと言われていないと言い張る。
結局、おばあさんは僕の隣の席に戻り、その後も愚痴を言い続けた。

ここまでの情報だとおばあさんは面倒くさそうなイメージで終わると思う。良いか悪いかでというと、悪い印象しか残らないだろう。
この日はとくに人が多かった。診察を終えた僕が戻ると、最初に来たときよりもさらに席が埋まっていて座れなかった。
仕方なくベンチの周辺を一周ぐるりと回りながら空く席がないか見ていたら、受付を終えたおじいちゃんが愚痴を言っていたおばあさんの近くを通った。おじいちゃんも席を探しているようだ。
まだまだコロナが心配される世の中。隣同士で座る人もいれば、ひと席空けて座る人もいた。また、席は空いているものの、なるべく密集しているところには座らないようにしている人もいた。
おばあさんは咄嗟に荷物をどかして、ここに座りますか? という目配せをした。おじいさんは大丈夫と首を横に振り、ほかの席を探しにいった。おばあさんの行動は、さっきまで愚痴を言っていた人には思えないような姿だった。

人にはそれぞれ事情がある。僕がもしもおじいさんとのやりとりを見ずに帰宅していたら、嫌なおばあさんのままで終わっていただろう。
SNSも同じだ。様々な情報が飛び交うなかで、最初の情報だけで判断できることは少ない。最初の情報で悪いイメージが先行してしまうと、自分の頭のなかが悪いイメージだけで埋まってしまうことがある。だけど、真実がどうなのかは当事者たちしかわからない。

人を撮るとき。その日までに何が起こったのか、僕は知らない。
もしかしたら撮影の直前にすごく嫌なことがあったかもしれない。
もしかしたら撮影の直前にすごく良いことがあったかもしれない。
一度の情報だけで判断できるほど、人間は簡単じゃない。
人にはそれぞれ事情がある。

model:mou(@mou_ne00)
hair&make:maki(@maki_hairmake_)
今回使用したカメラ・レンズ

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