いやーーー、参りました。そしてごめんなさい。
前回の記事の最後の方でこんな締め括りをしたんですよね。
実はこの「RAW動画」の存在は、「写真家から動画へのアクセス」という通路を開いてくれているんですが、もう1つの新機能が「ビデオグラファーから写真へのアクセス」という通路を開きます。それがまさに、HEIF形式の採用です。
で、書きはじめてしばらくして気づいたんです。
「どうやってHEIF画像を、このMARSHの記事で表示したらええんやろう?」
答え。無し。
HEIF形式の画像が示せないんです。Nikon Z 8が今回採用したHEIF形式という画像を表示するためにはHDR対応のモニターが必要、そしてそれを皆さんに直接みてもらうには、HEIFを直接表示してくれるブラウザが必要なんですが、モニターの方はまだしも、HEIFを直接表示してくれるブラウザは今の所1つも存在しない!ほんとにダメなのか、Chat GPTとBardの両方に聞いてみました。


ああ無情、レミゼラブル。
百聞は一見に如かずというのは画像・映像の世界では一番言えることなんですが、その肝心の画像をHEIFで表示ことができない。万事休す、何も書けない、、、と思ったんですが、1つありました!僕の画面、そのまま見てもらったらええやん!!NX StudioならHEIFとJPGを並べて表示できるので、その画面をそのままキャプチャしました。左がJPG、右がHEIFになります。

どこが違うか、お分かりになりますよね。一目瞭然、右側のHEIF画像は輝度表現が強烈ってことなんです。最高に輝度が高い太陽から、一番暗いシャドウまでの輝度表現がとにかく広い。空に残る青もしっかり捉えている。一方、左の写真は、右の画像をJPG出力したものですが、まるで現像前のRAW画像のような表示になってしまってます。これはJPGが100ニトを超える輝度を表現できないSDR(スタンダードダイナミックレンジ)という8bitの狭い輝度域しか表示できないために、1000ニト以上のHDRの輝度域側の表示で見ると、薄暗く、階調が狭くなってしまうので、ぬっぺりした感じになってしまうんですね。
この違いこそ、Nikon Z 8からニコン機では初めて可能になったHEIF形式の画像のもたらすものです。HDRに対応した画像表現が可能になることで、長らくSDRに押し込められていた写真の輝度表現が開放されます。写真を「光を記録するアート」と考えるならば、光の表現領域が広がることは、すなわち、写真の表現領域そのものが広がるということを意味します。ニコンがZ 8で拓こうとしているのは、まさにその部分。100ニト以上の領域。その目線が機能として結実しているのが、HEIF形式の採用なんです。
こんなふうに書くと、高まるでしょ。僕も書いてて高まってきてます。でもね、ちょっとまだ越えなきゃいけない壁がありましてね。HEIF形式を最初に採用したカメラはNikon Z 8以前にすでに存在していましたが、その「壁」を超えたカメラは、今のところ一台もないように思います。でもNikon Z 8はの壁を越えようとしている。ではその壁とは、どんな壁なのか。

上の写真も左がJPG、右がHEIFです。右のHEIF画像の方が、太陽の放つ夕焼けの最後の光をより明るく美しく捉えています。でも、左側の写真も、これだけ出されたら、多分綺麗に見えちゃうんですよね。壁とはまさにこのこと。SDR環境がいつまで経ってもレガシーとして残り続けている理由は、JPGがその便利さと汎用性、それから許容範囲内の美しさを提供してくれるので、ここでこれまで満足してしまってたんです、僕も含めて。その先に、その上に、広大な「表現領域」があるというのに!
この壁を前にして、何をするべきなのか。HEIF形式と、もう1つ何かが必要なんです。なんでしょう。それこそ、RAW動画なんです。前回僕は、RAW動画こそフォトグラファーが挑戦すべきタイミングであるという話をしました。その理由を前回の記事から簡単に引っ張ってくると、RAW動画は、写真家も含めた全てのクリエイターたちに「生の光の情報」をもたらすからです。RAW現像に慣れた写真家たちが参入するのに、これだけ好適な素材はこれまで存在しなかったでしょう。

そうしてRAW動画を経由してフォトグラファーたちが動画の領域に入った時、そこで気がつきます。写真ではほとんど顧みたことのなかった高輝度の領域が、実はもうすでに動画においては随分早く標準化されていることに。そしてそれに気づいたフォトグラファーたちは、写真においてもその拡張された輝度領域を模索することになります。RAW動画を通じて写真から動画にアクセスしたフォトグラファーたちは、今度はそこで得た知見を通じて、動画からHEIFの高輝度領域へとアクセスする。つまり、RAW動画とHEIF形式を搭載したZ 8が究極的に目指すのは、今まさに断裂している「写真におけるSDR空間」と「動画におけるHDR空間」を融合するという試み。ニコンの目指す場所は、おそらくここなんです。
だからNikon Z 8は単にいま現在最高のミラーレスカメラと言うだけではないんです。全てのクリエイターのために、新しい表現の場を創出することを目指して作られたカメラなんですね。その象徴が、8K60Pで収録できる内部RAW動画収録とHEIF形式の採用なんです。
今までどのカメラも、このどちらかしかできなかった。Z 8に先行して8K60P RAW動画の内部収録を可能にしたフラグシップモデルNikon Z 9でさえ、HEIF形式はまだ使えません。他社のカメラは、内部で8K60PをRAWで収録することは不可能。つまり、Nikon Z 8とは、この2023年時点において、最も未来を志向したカメラであるということなんです。燃えますね、高まります。
これまで写真と動画は、どこかで融合するだろうと言われてきましたが、それが果たされなかった理由は、2つの表現形式の間にはこの輝度空間の断絶があったからなんですね。その断絶を、いよいよZ8はRAW動画とHEIF形式を同時採用して埋めようとしている。まさに映像表現の歴史を一歩進めるカメラとしてZ 8は登場した、そう締めくくっておきますね。
ということで、第3回の記事も、かなりアクセルを踏んだお話になってしまいました。第4回の内容は、もうちょっと作例多めで行こうかなと思ってます。お楽しみに!






▲別所隆弘さんによるMARSH連載コラム『シャッターを切る前の話』

▲別所隆弘さんによる打ち上げ花火の撮影テクニック解説記事

▲別所隆弘さんによるNikon Z 8レビュー記事




