『エントリーキットチャレンジ』とは、「素敵な写真を撮影するMARSHクリエイターなら、初級者向けの機材でも良い写真が撮れるのでは?」という素朴な疑問から始まった、MARSH編集部からの挑戦状。
月替わりで登場するチャレンジャー(=MARSHクリエイター)が、GOOPASSでレンタル可能なエントリー機を使って、作例写真の撮影に挑む企画です。
「良い機材を使えば、良い写真が撮れる確率は上がる」という機材至上主義に一石を投じるべく、久しぶりのエントリーキットを手に取ります。
果たして、エントリーキットでも良い写真は撮れるのか?
第2回は、旅と記憶のリフレームを連載中のフォトグラファー・hirotographerさんです。
可愛らしい姪っ子たちもすっかり大きくなってきた。小さくて階段を下りれずに無言で両手を広げて抱っこを要求してきたあの頃、永遠に続くおんぶや抱っこや肩車のリクエストを仰せつかったあの頃、夏の盛りに川遊びをしてはしゃいでいたあの頃・・・あっという間に時間は過ぎて気づけばもう中学生と小学生。
こちらが遊んであげているのではなく、もう遊んでもらっているのかもしれない。
きっとあっという間に成長してあの思春期特有の距離感の中へ突入していくのだろう。そんなことを考えているタイミングに訪れたのが今回の記事の機会だ。
エントリーキットチャレンジ。
そんなお題をいただいて私が考えたのは、
「エントリーキットの性能の限界にチャレンジする」こと!
…ではなくて、むしろ
「エントリーキットならではの簡易さ、取っつきやすさでどういう写真が残せるか?」
ということだった。
つまり、マニュアル設定でカメラを構えている、いつもの自分には撮れない写真だ。
実はこれを突き詰めていくと、誰かに撮ってもらう写真に行きつく。

いつも自分の撮った写真しか残っていないけれど、もし一緒にいる誰かがカメラを持っていたら?それがエントリーモデルのように簡単な操作で扱えるカメラだったとしたら?
ちょうど今回のGWの帰省は片付けがメイン、時間を持て余してしまいそうな姪っ子に、このエントリーキットを渡し、一緒に遊んでもらうことにした。
GOOPASSで借りた富士フイルムのエントリーモデル、X-T30。
しっかりと充電してSDカードを挿入してから姪っ子(次女)に手渡す。
絞り?シャッタースピード?そんなことは後回しだ。
フィルムシミュレーションの設定だけ少ししてあげていい感じに写ればそれでOK。
何も教えてないし、指示もしない、彼女の感性と興味の在処に任せるだけだ。
X-T30の軽さやコンパクトさも抵抗なく触れてもらえる大事なポイント。
案の定、渡してみるとすぐに首からかけてなんだか嬉しそう。
この瞬間に成功を確信した。
最初はカメラの持ち方もおぼつかず、半押しすら上手くいかない様子だったのに、
1時間も立つと「ピピッ!カシャッ!」「ピピッ!カシャッ!」と小気味よいリズムを彼女は響かせていた。


夕食の準備をしていると、「見て見て!その辺で撮ってきた」と楽しそう。

夕食の時も3家族+両親の写真がいつもよりも増えて、夕食後も「ひろとくん、そこに立って手を出して、そうそう!その角度」と要求が続く。他人の創造性に身を委ねるのも悪くない。それが姪っ子なら尚更だ。
そんな私、叔父さんは中腰でプルプルと震えながら、姿勢を維持しつつ、やがて満足いく一枚が出来上がる。いいぞ、すごいぞ、エントリーキット。そして姪っ子。そしてそこからトリミング範囲の指定の適切さには驚かされた。子供たちが遊び散らかした後の雑然とした室内とそれと相反するような構築された画面バランス。

「xx市に行くときに持ってってもいい?」
一日だけ隣の町まで出かけたときも、雨天にも関わらず君はそう言った。
自分だったらきっと「雨だしな・・・」とカメラを置いていったことだろう。
帰ってきたときは「見て見て!xxちゃんの写真もいっぱい撮ったの!」と嬉しそうだった。

写真を見せてくれながら「一緒に遊んだxxちゃんの顔写ってるけど、大丈夫?」と聞いてくる。みんながスマホで写真を撮れる時代、プライバシーの感覚も獲得が早い。そんな違いを直に感じるのも写真撮影という行為を通した別の物語の体感だろう。
ブレてる写真が多いのは絞った写真が多いからだ、autoモードのレバーがいつのまにか切り替わってしまっている。でも、そんなことも気にしなくてよいし、何よりブレた写真もその時何があったかを思い出せるトリガーになる。それすらも君がシャッターを押さなければ映らなかった思い出だ。

たった3日ほどだけれど、姪っ子が撮った写真は900枚にもなっていた。
結構な枚数だ。スマートフォンを渡したとしても、そんな枚数にはたどり着かないだろう。カメラ、という専用機の力を感じるし、自分が普段、綺麗な風景、整った構図、適切な設定、そんなものに意識を奪われがちで、「ただ無心でシャッターを切る」ということを忘れていたのだと、少しショッキングですらある。


帰りの飛行機に向かうギリギリにも「最後にもうちょっと撮っていい?」と撮影を続けていたね。
実家の片付けがメインの帰省で、時間を持て余してしまうだろう君に少しでも良い体験になればと老婆心で渡したカメラだったけれど、得たものが大きかったのはこちらの方だったんだよ、きっと。
自分以外のみんなの写真を撮りまくって、結果自分は映らない、残らない。
楽しいけれど、少し寂しいあの感じ。
物語の語り手にまわり、写真だけでそれを伝えるけれど物語には入らない、
そんな立ち位置だ。
普段写真を撮りまくっている人ほど、この気持ちがわかるだろう。
そして、撮ってはいるものの、「いい瞬間」を収めたがるせいで、年を追うごとにシャッターは選択的になってくる。
きっと気づいていないだけで、撮らなくなってしまった光景も多いだろう。
そこからは抜け落ちてしまう記憶だってある。
でも今回は君が残してくれた沢山の写真がある。

別れ際、小さかったあの頃のように両手を広げてハグしてくれたことはX-T30のシャッター音とともにいつか思い出すと思うんだ。



あなたの撮らない写真を残してくれる誰かと一緒に過ごすためのエントリーキット。
普段カメラを携えて写真担当になってしまいがちなあなたに借りて、誰かに預けて欲しい。
機材レンタルはきっと自分が撮るためだけにあるわけじゃない。
お子さんのいるご両親、一緒に旅行に行く友人、恋人同士の何でもない一日、エントリーモデルを持つことで残る物語がきっとそこにはある。
普段カメラを持たない誰かがファインダー越しに見る世界にきっとあなたはいるし、あなたの視点を見つけた誰かがあなたを映しているはずだ。

今回使用したエントリーキット:FUJIFILM X-T30+フジノンレンズ XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ

| FUJIFILM X-T30 | |
| 有効画素数 | 2610万画素 |
| ISO感度 | 160~12800 |
| マウント | Xマウント |
| シャッター速度 | 1/32000秒~15分 |
| 手ぶれ補正 | なし |
| 重さ | 約383g |
| サイズ | 約118.4×82.8×46.8mm |
| フジノンレンズ XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ | |
| 焦点距離 | 15-45mm(35mm判換算23〜69mm) |
| 開放F値 | F3.5-5.6 |
| 最短撮影距離 | 0.13mm(広角) |
| 手ぶれ補正 | 光学式3段分 |
| レンズ構成 | 9群10枚 |
| 最大径×長さ | 62.6×44.2mm(収納時) |
| 重さ | 約135g |



